第5章 カ タ チ
「墜ちろ」
腹の辺りに感じる圧力。傾く重心
チエを抱き抱えていたのが、負い目となり体は一気に角度を変えていく
背中には、広大な海
夜の海は暗い空を反射して、同じく真っ黒に染まっている。
地面から足が離れ、宙に浮いた時、闇夜に挟まれてどちらが空かわからなくなった。頭は一瞬でパニックに陥る
しかし、そこで素直に落ちてやる2番隊隊長では無い
「ぐっ、、」
爆発で抉れたおかげで、崖は凹凸が沢山できていて、奇跡的にそこに捕まった。もう片方の手でチエを抱えながら、這い上がろうと足をかける
「死ね死ね死ね」
奴は今にもこちらへ襲いかかってきそうな目で、崖に齧り付いた。
俺との距離は数メートル。アイツが能力者でなければ、直接攻撃して叩き落とせただろうが、幸いにもヘイブンは能力者
おまけに俺はロギアで弾丸は効かない
正気はこちらにある、そう思っていたのが甘かった
「……その男はお前をなんとも思っちゃいないぞ」
「は?」
『…………』
ヘイブンの言葉が投げかけた相手は、俺ではなく、チエ
奴の言葉に、彼女が反応を示した
「お前を助けたのだって、守る対象としか見てないからだ!お前はその男にとって、まだ“守るべきか弱い女の子”のままなんだよッ」
さっきの攻撃で、大きな火傷を負った奴にもう余裕はないらしい。おかしな誘導尋問で今更チエに何をしようってんだ
こいつが、お前の言葉を信じるわけが…
『……して』
「ん?」
『はな、して……!』
チエの叫びに反応するようにバチリと小さな電流が腕に流れた。チエの様子が変だ
俯いたまま、肩を震わせる。ここからでは、チエの感情が読み取れない
「何言ってんだよッ、離すかよ!」
下は海とはいえ、夜で全く見えない。岩場かも知れないし、めちゃくちゃ深いかもしれないのに、こんな状態で放って置けるわけがねェだろ
「そうやって守った気になっているんだ。お前は。鬼の血を引く者など、何も守れやしない」
ドクリと心臓が跳ねた
俺の血のことを、何故こいつは知っている。
いや、奴の能力か
“鬼の血を引く者“
“生まれてきてはいけない存在“
“いるだけで迷惑“
散々投げつけられてきた言葉が蘇るのと同時に、血が熱くザワつくのがわかった