第5章 カ タ チ
「君が、女に生まれたせいで置いていかれたんだ」
『違うッ』
エースは、私を危険から遠ざけようとして…
「でも、守られたくなかったんじゃないか。君はエースの力になりたかったはずなのに」
『……っ!、、それは…』
ズキンズキンと胸の骨が痛む。血が送り出される度に、鼓動が増す度に、痛みは激しくなる
図星だ
「君は弱さを断ち切るために海兵になった。なのに、エースに会ってまた弱くなった」
『そんな、こと』
「ないと思うかい?僕は違うと思うなあ」
すぐに否定できなかったのは、白ひげの船にいる間感じていた、己の無力感。島を出た時より、何倍も強くなったエースを見て、置いていかれたままだった自分への嫌悪感が、人知れずあったからだ
ヘイブンの言わんとするところは、つまり
「女であること。それ以上の弱さはない。君は、弱さを断ち切るためと言っておきながら、女であることを捨てきれずにいる」
違うかい?と下から私の顔を覗き込んでくる。新品の靴が、血みどろになるのも構わずにバシャリと力強い一歩を踏みしめて。
「君には否定できないだろう。だってこれは、君の感じたままのことだから」
……その通りだった。
私は、ただの女の子だった自分が嫌で、海兵になった。無力なままでいるのが、たまらなく嫌だった
鍛錬を重ねて、体に消えない傷跡が増える度に、女としての価値を失っていった
それでもいいと、我武者羅に鍛えた。きっとエースなら受け入れてくれると、心のどこかで期待していたから
抱える矛盾は、自分が海兵であると自覚する度、大きくなる。
女である自分を自分で否定しながら、
まだ女でいることを捨てきれていない
…エースを好きな私を、捨てきれていない