第5章 カ タ チ
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「気分はどうだ?羨ましいな、死を体験できるなんて」
『……ここは…まだ地獄か』
頭の中に木霊する声。なんでそんなに嬉しそうなんだ
さっきよりも血溜まりは範囲を広げている。なのに、体の痛みは何も無い。怖いくらいに
「今回は前回の記憶があるんだね」
『……もう、やめてくれ』
痛いのは、もう嫌だ
痛みも、傷も綺麗さっぱり無くなっている。切り落とした腕でさえ、元に戻っている。まるで新しい傷を、ここにつけてくれと言っているようにも見えた
傷のない体が、これからそうなるという予感に変換されて、また恐怖を呼び起こす
『うっ、、うえぇえっ、ゲホゲホっ』
空っぽの胃から、迫り上がる恐怖と胃液が血溜まりに叩きつけられて、気持ち悪い。
「そうだなぁ、なら今回は趣向を替えてみよう」
……やめるつもりは、ないらしい
相変わらず楽しそうに手を叩く。自分の服も私の血で汚れているのに、それさえも愛おしそうに自身を抱きしめる
「君の嫌がることをしたら、今度はどうなるのか試そう」
私が、嫌がること…?
痛み以外に存在するのか、そんなもの
恐怖以外、何も考えられないのに
「ポートガス・D・エース」
『………』
チエの指が、ぴくりと反応した。それを見逃さずヘイブンは続ける
「彼、海賊王の息子らしいじゃないか」
『……それをどこで……!!』
久しく生気の籠った、鋭い目がヘイブンを突き刺す。
その表情を見て、彼はまた陶酔の笑みを浮かべた
「僕は、スキャスキャの実を食べたスキャナー人間。スキャンしたものは、どんなものでも読み取れる」
『……私から、情報をとったのか……!!』
恐怖に叩き落とされて、縋ることさえ出来なかったせいか、エースの名を聞いてその存在をすぐに呼び起こす
私の大事な人。
大事な人なのに、、私は…っ
知られてしまった、
誰にも、知られてはいけなかったのに…!
「まぁ、この事実を公表する前に、死ぬかもしれないけれどね」
『どういう意味だ』
エースの弱みを握っておきながら、私に見せるこの余裕は何なんだ。こいつの考えていることが、わからない。こいつの笑った顔が、恐怖しか引き起こさないせいで、まともに顔が見れない…
「餌を撒いたのは、白ひげだけじゃない」