第5章 カ タ チ
下へ下へと下る度、どんどん足場が悪くなってくる。照明も、頼りにはならないが点々とあった。それがもうこの辺りには設置されていない
羊小屋にしてはずいぶん長い地下通路だし、やっぱり怪しい。
「お?思い出してきたかもしんね」
そういえばここは羊小屋だ。マルコに言われてこっちへ来たんだった
時間が進む度に、記憶は徐々に形を取り戻していく。自分もあそこに倒れていたのは、何かされたのかもしれない
いいや、そんなことはどうでもいい
今はチエだ。
チエでないのならそれが一番いいが、確かめるまでは気が済まない
「おやおや。お客人」
すると、曲がり角の手前でどこからとも無く人影が現れた。思わず両足に急ブレーキをかけて立ち止まる
暗くてよく見えないが、俺の炎に反射してメガネをかけているのはわかった
「……アンタ誰だ」
目の前にいる男こそ、今回の任務のターゲットなのだが、今のエースにはわからない。それに姿形を見た訳ではなく、外見の特徴だけを聞いていたため、記憶があったとしても気づけたかどうかは怪しい
そして、ほぼ岩場と行ってもいい空間で、2人は出会った。流れる空気はじっとりと重い
「ふむ、3分か。下で待っているからあと5分したら来てくれ」
「は?」
一体何を言っているのか
俺は、何者かと尋ねているのに、目の前の男はこちらの要求など全く顧みずに言った
「何言ってるかさっぱりだな。俺の質問に答えろ」
男の纏う異様な雰囲気に警戒したエースは、右手で銃の形を作り、銃口に炎を灯した。何かあった時に、すぐ反応できるように
「まったく面倒だな。そろそろ目が覚める頃だから私は戻らないと」
「…! 一緒にいるのは誰だ!そこまで俺を連れていけ!!」
男から漂う、異常な空気感。エースは無意識に囚われているのがチエだと断定していた。危険な目にあっている、そしてそんな目に遭わせているのが、この男なのではないかと。
(いや、間違いない)
追いかけてきた足跡は土ではなかった。あの時は気づかなったが、この男も、この場所も、どんどん匂いが濃くなっている
錆びた鉄のような、ツンとする感じ
……これは紛れもなく血の匂いだ