第5章 カ タ チ
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「んぐおおお……」
小屋に侵入したエースは、大きな鼻提灯を膨らませて、大の字に伸びていた
正確には、眠っていた
パチン。
「んが?…しまった、寝てた」
鼻提灯が割れると、お目覚めの合図。上半身を起こし、頭を搔くとぼやけた頭に悲鳴が鳴り響いた
「うおっ!?」
今の悲鳴は一体なんだ
聞き覚えのあるような、ないような……
「ところで俺……何しに来たんだっけか」
悲鳴は一瞬のことで、気にはなるが遮るものがひとつ
覚えていないのだ。ここに来たことを
エースは外に充満していたスモークを吸ったせいで、一時的ではあるが記憶が抜け落ちていた
当の本人はその事を露知らず。
辛うじて、イゾウにチエを任せ、町へ向かったところまでは覚えていた
「あっ!」
チエの名前ひとつで、1つ目の歯車が繋がった。
さっきの悲鳴、どこかで聞き覚えがあると思ったらチエの声じゃないか
そうとわかると、全身から汗が吹き出してきた。チエに何かあったのか。
急に湧き出した焦りに身を任せて、声のした方向へ駆け出す。暗くて足元は見えづらいが、なんてことは無い。炎を少し出しながら走れば、足元もよく見える。
(……間違いであってほしい)
ここがどこか知らないが、船に置いてきたはずのチエの悲鳴が聞こえるはずない。走りながら、ひたすらあの悲痛な悲鳴がチエのものでないことを祈った
「あれ、どっちだ……」
全くもってここは迷路かなにかか
ひたすら走ると下へ続く階段があり、そこから更に枝分かれした通路に出て頭を抱えた
「ん?これ、足跡か?」
ささくれだらけの、ボロボロの床にうっすらと靴裏の模様のようなものが続いているように見えた。薄くてわかりづらいが、赤黒い線にも見える。土では無さそうだ
一先ずこの足跡を追ってみよう。山で培った修正が、海に出てからも役立つとは思わなかった