第5章 カ タ チ
「君自身は知らないらしいね。知らないと言っていたよ」
『は?』
まるで誰かと会話したかのような言い方
怪訝な顔をする私を無視して、ヘイブンは至って普通に喋り始めた。なんなら少し流暢なくらい、言葉を巧みに並べ、陶酔の表情を浮かべて言った
「君は自分の価値をわかってない。それってどんなに勿体ないことか……わからないよね?」
『……さっきから何の話をしているんだ』
「僕はね、ずっと探していたんだ。でも君たちはとってもとっても希少で、噂の中でしか存在し得ないと思っていたんだ」
本気で探すやつはいない。ワンピースよりも希少なものだと、目の前の男は言った。話の趣旨がわからない。一体なんだって言うんだ
それよりも、あいつが話に夢中になっている内に、この拘束を何とかして抜け出さないと
「ああ、ダメだよ。君は貴重だって言ったじゃないか。せっかく捕まえたんだから、逃がすわけないだろう?」
バレている。
気が逸れていると思ったのは大きな間違いだった
先程までの生気の抜けた瞳とは違い、爛々と輝いている。朧気な記憶の中でみた、嬉々としているこいつとも違う目……
下手をしたら、殺される…
「君は最高のモルモットだ。ほら見て、この血を。ぜーんぶ、君のだよ。美しいだろう?」
ビリと肌を伝う殺気。背筋を駆け巡る不快な恐怖
どんどん狂気にまみれていくDr.ヘイブンに、脱出の希望がむしり取られて行く…、、
…どうしたら、いい
『…私に、何をしたって聞いてるんだ』
震えそうになるところを、力みながら抑えて声にする。指先をギリリと内側に握りこんだ
「5回殺した」
『……は?』
5回、殺した…?
何を言って…
……でもこの血の量なら、、もしかして、本当に……
「正確には6回だ。ついさっきまで君の中に即死レベルの毒虫を入れてたんだけど…僕の計算より少し目覚めるのが早かったね」
首を傾げてこちらに向けた笑顔に、全身が凍りついた
ぞわりと体の中を何かが駆け巡った。勢いよく、皮膚に足をかけて確実に。まるで本当に毒虫が体を駆けずり回ったかのような、恐怖が走る
『……っ、』
どうしよう、動けない…っ、
ダメだ落ち着け。
Dr.ヘイブンの話を信じるな。奴の薬で体を弄られたんだ。恐怖に煽られるな
「じゃ、7回目いこっか」