第5章 カ タ チ
…………あ、れ
ふと意識が鮮明に浮び上がる。いつ間にか開けていた視界に違和感を覚えた
目を開けたまま寝ていたかのような、不思議な感覚が体に残っている。微かに乾いた口も、開けっ放しだったのだろうか
頭が、重たい
いつもより重力を感じながら、頭を上げた。薄暗い足元から、一気に眩しさが視界を眩ませる
『……ッ、』
円形に6つ並んだ白熱灯。それが理解出来たところで自身の置かれた状況を思い出した
『!』
ここはどこだ。奴は、、ヘイブンはどこに行った
目の前にライトを置かれ、周りがよく見えない。頭の中が混乱する中、息を吸って近くに奴の気配がしないことを確認した
『……ふぅ、』
気絶して敵に捕まるなど海兵として恥じるべきことだ。ましてや何の情報も残せないまま、ただ消されるなんて…
『…ッ!?』
項垂れるように床を見つめると、驚きのあまりため息が引っ込んだ。そこには想像を絶するほどの景色が広がっていた
両腕両足ともに拘束してあるだけで、特に外傷は見当たらないはずなのに、足元に広がるのは……
『……血?』
赤黒く、どろりとした血溜まり。それも私を中心に円を描いて広がっている。よく見れば壁の至る所にも血が飛び散っている。
体の感覚がぼんやりしていたのが戻ってきたのか、服にも違和感を感じて見下ろした
『うわ、』
初めからその色だったかのように、真っ赤に染まり、血以外の色が見つからないほどだった
この部屋に私以外の人間や動物は見当たらないし、匂いも気配もない。
……つまりこの血は私のものである可能性が高い
でもどういうことだ、
傷もなければ、痛みもない
あるとすれば、頭の重さと体のだるさだけ
そんなとき、この謎を産んだ張本人が扉を蹴破って戻ってきた
「素晴らしい……ッ!!!まさか、生きている内に出会えるなんて……ッ」
…それは今までに見た事のない、狂気じみた笑みを浮かべていた。入ってくるなり私の方へ一直線に進み、肩を掴む
「君は、世界に愛されている」
『……何を言っている』
自分で薬でも投与したのか。先程とは全く人格が別だ。それに、なんだ“世界に愛されている”って
『…私に何をした』
状況はこちらが圧倒的に不利。もしこの血溜まりを私が作ったのなら死んでいてもおかしくない量だ
なのに生きてる。傷もない。