第5章 カ タ チ
丘は煙で満たされていて、先はよく見えない。木の上から見た感じでは、海側の崖の方が一番崩れていたし、羊もそこにいた
崖より手前側が羊小屋だと踏んでやってきたが…
「この煙じゃ進めねェな…」
もくもくと立ち込める煙に視界は遮られ、とてもじゃないが進めない。
…人の気配もしねェし、やるか
「陽炎!」
片手を前に翳し、煙に向かって炎を噴射した。煙を飲み込む勢いで炎は広がり、あっという間に道は開ける
煙が晴れ、先程より見晴らしがよくなると今度は何メートルか先に小屋のようなものを見つけた
陽炎で消せた煙は、この小屋までの数メートル分だったらしい。
「にしても変だな。爆発が起こったにしちゃ、随分と綺麗だ」
小屋に違和感を感じて、正面に回ってみる。まだ煙は多少残っていたが進めないほどじゃない
「……どういうことだ?」
回り込んだ先には、何の変哲もない普通の小屋。破損もしていなければ、焦げ跡さえ付いていない
それほど大きくない爆発だったのか?それにしては煙の量が多かったような……
待てよ、
振り返ると、そこには倒れた羊と飛び散った瓦礫…そしてさらに中心部には、さっきよりも濃い煙があった
…この煙、変だ
規則正しすぎる。炎が燃える時はもっとこう、不規則に揺れている。煙もまた然り
もしかして、Dr.ヘイブンが作ったものか?ここには本当に奴がいるのか
「あっ、やべ」
もし本当にそうなら、この煙は吸ったらヤバそうなやつだ
ひとまず煙の無い場所……
そうだ小屋の中に入ろう
運が良ければ、奴もいるはずだ
そう思い、エースは急いで小屋の中に入り込んだ。
*
「今回は少し遅かったなぁ…。今何回目か分かる?」
『………?』
気を失っていた……のか?
ここ、さっきの場所と違う
何回目……?
『……何、をした』
「正解は5回目だよ。今回は少し喋れそうだね。」
頭が、回らない
くらくらする……
「やっぱりまだ朦朧としているか。次こそちゃんと調整するから」
目の前にいる、コイツは…誰だ
こんなに、嬉々とした表情の男を、私は知らない…
「さ、これで6回目だよ。まぁ、次に目覚めた時にはこの数字も覚えてられないんだけどね」
ヘイブンの言葉の意味を理解出来ないまま、視界は再びフェードアウトしていった