第5章 カ タ チ
「殺さないよ。それはあまりにつまらない」
ヘイブンはキョトンとした顔で答えた。
腰を持ち上げ、立ち上がる
…私を薬漬けにでもするつもりか
警戒の姿勢を取るが、この狭い洞窟では交わしきれる自信が無い…
月歩と剃で、奴が現れた岩陰を攻撃したとしても、海水を防ぐ扉で阻まれるだろう
この男が自らをDr.ヘイブンだと認めた時点で、私の行く手は狭められた
さぁ、どうする、、どうやって切り抜ける…っ、
ヘイブンがランプを前に突き出すと、ぱっと手を離した。落下するランプの光を追う暇もなく、奴の影は私に牙を向く
(光の影に紛れて距離を詰める気か…!
…させない…!)
落下するランプの光に向かって、一直線に地面を駆ける
スピードなら負けない
影の中から私の動きを察知し、攻撃してもそれより早いスピードで光の当たる範囲に逃げ切る
素早くランプを勝ち取り、殺気の飛んでくる方向に差し向けた
闇の中にいるのは、獰猛な目をした獣だった
先程までの温厚そうな顔は、どこにもない
「いいね。君、しぶとそうだ」
『…それだけが取り柄だからな』
次の攻撃に備えて、体制を整える。爆発に巻き込まれて左足を負傷したが、折れてはないみたい。今ので確認した
「では次のステージだ」
次の瞬間、洞窟内が真っ白になった
*
「あれか?」
木に登って、辺りを見渡す。エースの目下には煙が立ち込めた丘が広がった。
煙の間から微かに見える屋根と、飛び散った残骸。
ここに来るまでに聞いた爆音は、これだったらしい
爆発に巻き込まれて何頭か羊がパニックで走り回っていたり、倒れていたり。だが不思議と人の気配は感じなかった
マルコに指示され、この丘に来たが……
「こりゃ、一体どうなってやがる」
マルコの話では、ここには最近やってきた羊飼いがいてそいつが怪しいから見てきてくれ、っていう内容だった
自爆、なわけねぇよな
何かの罠か
何より、本物ならこんな派手な真似はしないはず。
何かの意図があるはずだ
「とりあえず、降りてみっか」
複雑な思考回路を捨て、エースは牧場に飛び降りた