第5章 カ タ チ
……この男、怪しい
『私はどのくらい眠っていたんだ?』
「さぁ…5分か10分程度じゃないでしょうか」
ここは牧場の地下と言っていた
でも爆発が起きたのは牧場のある丘。下の海岸にまで爆風が来るほどの大爆発だぞ
牧場が無事にあるはずがない。地下への入口だって塞がっていただろう
わざわざそんな所へ運び込むか?目が覚めるまでの10分そこいらで、丘までわざわざ登って瓦礫を寄せて地下へ?
普通に考えて無理だ。
それに私を見つけた時点で医者の所へ運べばいいはずだ
少し休ませるにしても、何かしら手当てするものを持ってくるか、目を覚ました時に状態を確認するべきなのにそれをしない。
怪我人を放ってどこへ行っていた?
この人が手に持っているのはランプだけ
何かを取りに行っていた…?
一体何を
「そう警戒なさらないで。私はただの羊飼いです」
『……とてもそうにはみえない』
男はランプを片手に持ち、近くまで来ると膝を着いた
「どうして?」
温厚な顔立ちをしている。特に害のなさそうな平凡な顔だ。けれど、違和感があるんだ。さっきから、ずっと
『羊飼いは基本外にいると思うんだが』
「ええ、そうですね」
『牧場の中とはいえ、歩くし作業で汚れる。なのに貴方はぴかぴかの革靴を履いている』
ベストは汚れているのに、どうして靴だけそんなに綺麗なのか。
新品を今日出てきたにしても、爆発に巻き込まれ、海に落ちたならもう少し汚れていていいはず
なのに、靴はピカピカに磨かれて綺麗になっている。
私が目覚める10分程度で、わざわざ磨いてきたとでも言うのか
そんなはずない。
あんな爆発があったのだから
『人に親切にしたことないだろ。Dr.ヘイブン』
眼鏡のレンズ越しに、平凡な瞳をじっと見る
「やっぱりわかるものかい?」
瞳は揺れることがなかった。
最初から芝居。そして芝居であると気づかせるために敢えて可笑しな言動を取ったのかもしれない
どちらにせよ、これは……
『…挑発、か』
Dr.ヘイブンは、こちらより遥かに多い情報を握っている。現に、白ひげ海賊団の誰一人としてここへ辿り着いていない。情報操作されているか、奴らの方が上手なのか
…しかし、今最も海賊王に近い男の率いる海賊団
引けを取るとは思えない
となれば情報を操作されているのかも…