第5章 カ タ チ
チエがビスタに向けて、憧れの眼差しを放っている。それを横目でぼんやり見ていると、ビスタと一緒に来たイゾウが俺の肩を叩いた
「そんなに喜んでいいのか?約束通りならあの島で降ろすんだろ」
「あ、」
俺以外には聞こえない音量で、そう囁いた。
言葉を頭で理解した瞬間、しまったと思った。ついいつものテンションで島を見つけて舞い上がってしまったが、そうか。……あの島でチエを下ろさなきゃ行けないのか
青い地平線に緑のボコボコが見えるだけで、まだどんな島か分からない。無人島かもしれないし、大都市かもしれない
俺は航海士じゃねェから、よくわからねェけど、今日明日に到着出来るような距離じゃない
もう一度チエに視線を戻せば、先程のキラキラした眼差しから一転して真剣な顔付きでビスタの話を聞いていた
(あの島についたら、この姿をまたしばらく見れなくなるのか)
ぼんやり思うだけで実感は出来なかった
でも、少しだけ体の真ん中を引っ掻かれたような気がした
「くぅーん」
いつの間にか俺の方へ寄ってきたコタツが足元で鳴く。心做しか心配そうな顔をした、本当にかわいいやつ
こうして動物に愛着が湧くのも昔じゃあまりなかったかもしれない。コルボ山にいた頃は食料としてしか、戦う相手としてしか見ていなかった気がする
これもチエのおかげかもしれない。
チエは今思えば、昔から無茶苦茶なやつだった。ルフィが1人で猛獣と対峙した時も庇うように前に出てこう言ったんだ
【おすわり!!!】
それはもう真剣な顔付きで言うもんだから、木の上から見物していた俺とサボは口をあんぐり開けたっけな。
最初は、咄嗟に出た言葉だったにしろ猛獣が聞くわけないと思っていた
でも予想と裏腹にすぐさま、猛獣は犬みたいに大人しく座ったのだ。
俺たちふたりは閉じられなくなるくらいもっと口を開けた
あの時、本当は自分だって怖かっただろうに……それでも真っ直ぐ見つめる強い翡翠色の光を俺は忘れてねェ
…服従させたあと、ペットみたいに撫で回してたのも忘れてねェし、俺たちが木の上から見物していたのを耳が割れるほど怒鳴られたことも忘れてねェ…………
ずっと昔から、チエの本質ってヤツは何一つとして変わっていなかった