第5章 カ タ チ
先程までマルコに無茶を押し通そうとしていたのに、その勢いは減速し、思考のベクトルは逆を向き始める。
今は軍に戻れるかもわからない状態
私は死んだ者とされ、戻ったとしても今までの部下も隊も部屋でさえも綺麗に片付いているのだろう
中将どころか、最悪海軍に私の居場所はないかもしれない
一歩も進めていない…むしろ後ろに引かれるような気がした
「どうするかは自分で決めろよい。作戦の話はその後だ」
話にならないとでも思ったのか、マルコはその場に私を残してどこかへ行ってしまった。
私もその場にただ佇む訳にもいかず、ふらふらと自室へと足を運んだ。
ぼすり、とあまり使われていないベッドに腰掛けた。硬いベッドの上で同じく硬くなった私はもう一度新聞に目を落とす。
私の後任や、過去の実績について特に何も触れられていない。世界にとっては本当にちっぽけな出来事なんだ
私の人生は、まだ誰にも称賛してもらえるようなものではなかった。興味を唆るものでもなかったのだ
……別に誰かに讃えられたくて海兵になったわけじゃ無いけど
誰にも認められていない、自分の力はまだまだこの程度なのだと叩きのめされた気がした
『……どうしよう』
今まで殉職した海兵が戻ってきた話は聞いたことがない。仮に生きていたとしても軍へは戻ってこないだろう。
私の席がまだ軍にあるのなら可能性はある。1からやり直すことも出来なくはない
ただ、物凄く遅れをとる。
中将になれたとしても、私の実力じゃ不釣り合いすぎる
何せまだ私個人の正義も掲げていないのだから
海兵は皆、各々正義を掲げ、それを信念とし任務を遂行する。
例えば海軍本部元帥・センゴクは【君臨する正義】おつるさんは【清らかな正義】など、正義を掲げることを許されているのは中将以上なのだが、皆密かに己の正義に従って仕事をしているのだ
そして私が中将になれない理由がもう1つ。
中将になるための条件がある。
それは覇気が使いこなせるかということ。
そして基本となる体術、六式を使えるかである
六式も覇気も、訓練はもうとっくに始めている。だか悔しいことに私の基礎体力、戦闘力は普通の女の子だった。そこから体を作るのにかなり時間がかかり、まだどちらも完璧には習得出来ていなかった