第5章 カ タ チ
応えるようにしてコタツは鳴く
埋めた毛並みからは、獣の独特な匂いと潮の香りがする。それに混じって懐かしい匂いもした
なんだろう、この匂い
青臭いようにも感じるし、鼻が詰まって噎せ返りそうにもなる。
でも、覚えている。この匂いを
懐かしくて、温かい太陽の光を浴びた匂い……………そうだ、陸だ、陸の匂いがする
『コタツ、おまえどこか島に行っていたの?』
「にゃーん」
『誰と?』
そう問いかけると、コタツは起き上がってベッドから飛び降りた。
「にゃーん」
扉の前で私に向かってひと鳴きした。まるでついて来い、と言わんばかりに
動物の言葉はわからないけれど、何となく動作や目の動きで何をしたいのかわかる。逆に私の気持ちを動物たちは簡単に察してしまう。何か、見えない線で繋がっているみたいだった
コタツの後を追うと、先程の甲板に出た。そこでにピタリと静止して右往左往する。多分、匂いを探しているんだ。コタツが乗ってきた船の乗組員は、コタツが現れたここに登ってきたに違い無い。そこまでは私にも推理できる。
きょろきょろする頭がすくっと、ある一点に固定された。そして標準を定めたのか、コタツは一気に走り始めた
きっと見つけたんだ、
にしても、さっきまで歩調を合わせていてくれたコタツとは全く違う走りをしている。本物の獣だ
私の足でも追いつくのは難しい
それでも何とか見失わずに追いかけていくと、船の一番下まで来た
「急に飛び出して行きやがって。そんなにおまえの主人に会いたかったのかよ」
「グルルルッ……にゃーん」
聞いたことの無い声だ。でも、コタツが懐いているのなら悪い人間ではないんだろう
ここは、この船の中で一番暗くて湿っぽい。明かりは天井にぶら下がったランプが一つだけ。
コタツが走った先に誰かいるようだけれど、薄暗くてよく見えない
そして何より、とても似ている。この光景は軍艦の中でも同じだった
『地下牢…』
「そこにいるのは誰だ」
既視感のあまり零した声に、相手が反応した。階段をかけてきた音がきこえていたんだろう。声に驚きはなかった
「ガルッ…グルルッ」
コタツが興奮したように、飛びついているようだった。見えはしないけれど、カリカリと床に爪を立てる音で何となく察する