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【血界戦線】紳士と紅茶を

第3章 告白(下)



「君ってさ。『組織』から今まで給料を受け取ったことあるの?」

 今度はチェインさんが言う。ザップさんの顔面の上に立ちながら。
 ……ザップさんが怒声と共にもがいてるけど、どうでもいいか。

「は? 給料?」
 ポカンとした。考えたこともなかった。

「だって『組織』の一員なんでしょ? なら労働に対し、対価を受け取る権利があるよね」
「でも働いてませんし……ずっとここにいただけだし」
「君はその『不死』の能力を使い、外部侵入者をあざむき、この土地を守ってきた。
 二十四時間、一度も離れずに。それが労働でなくて何だというのだ」
 とクラウスさん。
「で、でもそれは私が自主的にやってることだし……」

「それ以前にも、ここで『実験台』やってたんでしょ?」
「え。いえチェインさん、私はここの雑用――」
「いやさっき、自分から言ってたよね。雑用じゃないよね?」
 うう。ヤバい。『雑用係やってました☆』という設定を完全に忘れてた。私、相変わらず馬鹿だー!!
「で、でも実験台は仕事とは違うもので……」
「君の仕事を、語弊を承知で言い換えるなら『治験』……つまり臨床試験の被験者に近いシロモノだ。
 通常、そういった仕事は高額報酬を伴うものだよ」とスティーブンさん。
「しかも死んでるなら、一回の死亡手当てだけで相当なもんだぞ~」
 未だチェインさんに踏まれながら、死んだ魚の目のザップさん。

「カイナ。君はこの『組織』から実験必要時以外の医療的処置、麻酔、休養、食料といった人道的扱いを受けた覚えは? また殺された回数は?」

「うーん。実験のときだけ檻から引きずり出されて、終わったら蘇生完了まで檻の中にポイ、でしたからね。麻酔はなかったなあ。
 どうせ、またすぐ死ぬからって、水も食べ物ももらえなかったし」

 覚えておいでだろうか。
 私がクラウスさんにドーナツいただいて、ボロ泣きしたことがあるのを。
 出会った当初は、そのくらい食料に飢えていた。

「何回殺されたかは、うーん。分からないです。数え切れないくらい、としか」

「では、やはりこの金は君が受け取る権利がある」
 とクラウスさん。

 スティーブンさんもうなずいた。
「外の法に照らし合わせても正当な額、いやむしろ少ないくらいだよ。
 奴隷や家畜だって食料はもらうのに、君は何一つ得ていないんだ」

「えー」


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