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【血界戦線】紳士と紅茶を

第3章 告白(下)



 鍵のかかってない扉を押し、中に入った。

「うわ、懐かしい。クラウスさん。これ私の『部屋』です」
 
「……カイナ」

「は? え……?」

 ギョッとした。
 入り口から実験室に入ってきたクラウスさんはさっきの比では無い『鬼』としか言い様のない、凄まじい気をまとっていた。
 恥ずかしい話、失禁するかと思った。

「あ、あの……その……」

 な、何でいきなり。

 立っていられずへたりこみクラウスさんを見上げる。
「落ち着け、クラウス。君が本気で暴れると、地下が丸ごと崩壊するぞ」
 続いて入ってきたスティーブンさんが、クラウスさんの肩を叩いた。そして私の手を取り立たせてくれる。

「お嬢さん。君、今、平気な顔で笑っているけど、君の目にここはどんな場所に映ってるんだい?」

 は? そりゃ見えてるままですがな。

「普通の実験室ですよ。これ私の『部屋』」
 鎖のついた鉄格子の小さな檻を指す。
「あといつも使ってたベッド。それと実験機材」

 皆は無言。ザップさんは舌打ちして、さっさと先に進み、チェインさんも壁に溶けている。
 え、いったい何か私は場違いで失礼な真似を!?
 頭をひねり、ハッとした。

「す、すみません。最後にここ使ってたとき、止血の下手な素人研究員が担当だったんで」
 室内は何から何まで、私の血にまみれてる。
 そりゃグロいわなと、自分の馬鹿さ加減に呆れる。
「後で掃除します!」
「いやいい」
 スティーブンさんは実験室のPCからさっさとデータを抜き、ケースにしまう。
 その手がほんの少し、震えている気がした。
 そしてもう用はない、と言わんばかりにすぐ出て行く。

 クラウスさんだけが私の横に立ち、さっきのように鬼気迫る目で実験室を見ていた。

「そだ。クラウスさん、この『部屋』を持って帰っていいでしょうか。この中って、ちょっと落ち着――」

「――――っ!!」

 クラウスさんが何の血闘術を使ったのかすら分からなかった。

 とにかく次に目を開けたとき、私の『部屋』は針金の檻みたいに、ぐしゃぐしゃになり、破壊されていた。
 唖然として口もきけないでいると、
 
「行こう、カイナ」

 クラウスさんの手が私の手をつかむ。そして有無を言わさず引っ張っていった。

 私はワケが分からず、引きずられていき、第十三実験室を後にした。
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