第1章 出逢い
あー、殴られた頬が痛いわー。女を殴るとかないわー。
と思うけど、異界の人々にンな倫理観が通用するわけもない。
私カイナ。今、首筋をぶらーんとつまみ上げられ、足が地面につかぬ。
漫画でよく見かける描写だが、リアルにやられるとマジで首が取れそう。
「えーとですね、困るんですがー私の強いお仲間の男性がもうすぐ来てー。超強い奴でしてー」
「うるせえ!!」
今度は嘘も通じない。
今どういう状況かというと、私はタコっぽい異界の兄ちゃんに殴られ、地面に転がっている。
頭を靴の裏でガンッと踏みつけられ、口から砂利まじりの血が流れている。
あー、痛い痛い。てめえら百万回殺す! 私の想像の中でな!
目の前ではブルドーザーっぽい異界生物が教会のガレキをガシガシ食いまくって更地にしていく。
まあそれ自体はありがたいんだけど、放っておけば半日後にはヤク屋か娼館でも作られてそうだ。
私に暴力をふるってる彼らは何者なのか?
地上げ屋だ。
災害の混乱に乗じて、土地の乗っ取りをする悪人たちである。
タコ兄ちゃんは八本足でスマホを使い、上役に連絡を取っていた。
「あ、はい、兄貴。×××地区の×××三番区画、制圧完了です。
人類(ヒューマー)の若い雌が一匹しかいなかったんで。あ、こいつどうします?
脊髄抜きます? このまま売ります? あ、ポチのエサにしていいっすか?」
どの選択肢も怖いなあ。
てか今、ポチって言われたとき、ブルドーザーが『にゃあ』と鳴いたんですが!
名前可愛いな! てか私、この生体ブルドーザーのおやつになんの!?
いだだだだ。頭を何度も踏まないで。抵抗しないってば。
あー、血がまた出てきた。痛いなあ。
「あー、はい。分かりました。よーしよし、ポチ、おやつでちゅよ~」
タコっぽい兄ちゃんはかがんで私の襟首をつかむ。
見ると目の前に、さっきのブルドーザーっぽい異界生物がどーんと口を開け、よだれを垂らしてるのが見えた。
その奥にキュイーンとうなりを立てる、何重ものドリルや歯車やカッターが見えますが!
気分はミキサーにかけられる寸前の果物である。
誰かー、助けてー!と内心叫んでも、崩れかけた十字の神様は何もしてくれなかった。