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【血界戦線】紳士と紅茶を

第1章 出逢い



 何か――引っかかる。

 それはいくら振り払おうとしても消えず、プロスフェアーでは記録的な短時間で負けに追い込まれた。

「どうした? クラウス。こんなにさっさと投了なんて珍しい」
 友人がノートパソコンから顔を上げ、不思議そうにしていた。ついでに、仕事中のゲームを咎める視線と共に。
「いや……」
 口ごもり、別の書類業務を始めた。
 だがそちらも一向に身が入らず、遂行はしたものの、通常より処理速度が遅れた。

 そして休憩時間になると同時に、クラウスは立ち上がる。

「ギルベルト」

「お車の準備は整っております、坊ちゃま」

 昔から仕えている執事は、万事心得たように一礼する。

「今日は外なのか? それとも要人との会食予定でも入ったのか?」
「いやスティーブン……その、まあ、行ってくる」

 珍しく言葉を濁すリーダーに、その場にいたライブラのメンバーたちが顔を上げる。
 だが構わずギルベルトの用意したコートをつかみ、大股に歩き出した。

「坊ちゃま」
 ギルベルトの声に含まれる懸念(けねん)は理解出来た。
「分かっている、ギルベルト。彼女が無事保護されたことを確認したいだけだ。
 それで、この件は終了とする」

 あの崩壊しかけた教会に再び行き、彼女の不在――彼女が婚約者に保護され、安全な場所に移った証――を確かめれば、この胸の気鬱もきれいに晴れるだろう。

 彼女のことを記憶の向こうに流し、いつもの自分に戻れる。

 そう思った。
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