第3章 告白(下)
「クラウスさん、なぜこちらに?」
誰よりも先にクラウスさんに聞く。『寝るから』みたいな嘘をついて、追い返した気まずさもあって。けどクラウスさんは気にした素振りもなく、
「君にこれを渡し忘れて」
と、クラウスさんは懐からスッと何かを取り出した。
「……ども」
手紙、である。暗がりでよく見えないけど、この前のような『いかにも』な貴族のお手紙なんだろう。
達筆なクラウスさんの字で、私への宛名が書かれているのが、かすかに読めた。
「……手紙に書くようなことなら直接言えばいいし、スマホでもいいんじゃないですか?」
「最初はパーティーの招待状を書き直そうとした。
だが、君のことを考えながら筆を執(と)っていたら、つい長くなってしまった。良ければ読んでくれると嬉しい」
一見、『らしい』台詞をささやいているようである。
が、手紙の内容は九割方、生活指導であろう。
雑草食わない方がいいとか、ちゃんとした家に建て替えないかとか、一緒に食事に行かないか、とか。
あくまで『提案』であり、決して強制はしてこないけど。
あ。そだ。
「クラウスさん。これからスマホでの連絡は控えて、手紙で書いていただけませんか?
あなたの会社のビルがどこか分からないですが、私のテントって、そちらの窓から見えるんでしょう?
一日中連絡とか大変だし、お仕事のお邪魔にもなっています」
「私は大変とも邪魔とも思ってはいない」
案の定、クラウスさんは難色を示した。
だが後ろでスティーブンさんが『うんうんうん!』って感じで超うなずいてますよ、クラウスさん!!
「私、クラウスさんの字がすごく好きなんです。文章もすごく美しいし、何百回でも読み返したくなるっていうか……」
これは嘘ではない。字や文章がきれいすぎて、見とれてしまう手紙など、クラウスさんしか書けないであろう。
「分かった。これからはスマートフォンでの連絡は少し控えよう。ただし君も返事を書いてくれたまえ。いいね」
即答であった。
「最善を尽くしますデス……」
あと……『”少し”控える』って言った? ゼロにするんじゃないの? ねえ?
あと、後ろで白けた声が聞こえた。
「スターフェイズさん、俺、帰っていいっすか?」
「待て待てザップ。連中は、ほとんど全貌が分からないまま壊滅した。少し調べたい」