第3章 告白(下)
教会の地下通路。
私は目を閉じ、ちょっと耳をすます。
そしてすぐ顔をしかめた。
「あーあ、『あいつ』、やっぱり生きてたかあ」
かすかに聞こえたのだ。赤子の悲鳴のような、子猫の断末魔のような、おぞましい声。
「面倒くさいなあ」
ため息をついて、またすたすたと歩く。
「ん?」
足下が光った気がして、視線を下ろす。
「あら」
ほんの数歩先に、禍々しい色の攻式呪術陣が光っていた。
術式が災害か何かで歪んだのか、私が踏むより先に光ってしまったみたい。
「あらら」
えーと、これの効果って確か体の表裏が反転するんだっけ。
ちょっと考える。回避は可能か? イエス。
ただ私の回避能力だと、被害を完全に防ぐのは不可能だ。
「なら死んで、無傷状態で復活しますか」
そのままスタスタと行こうとして。
「ちょっと!!」
誰かに思い切り後ろに引っ張られた!
「わ!!」
懐中電灯が床に落ち、カンカンと音を立て、転がっていく。
「え?……ええ!?」
地下には私しかいないはずなのに。びっくりして後ろを振り向いたら。
「君、何考えてるの! 何で見えてる罠に突っ込んでいこうとしてるわけ!?」
んん? 懐中電灯の明かりが、見たことのないお姉さんを映している。
とても巨乳……いや胸はどうでもいい。黒髪のスレンダーな、でも巨乳……いや胸はいいって。ちょっと怖そうな大変うらやましい胸の……いやいやいや。
「どなたですか? ここはとても危険な場所です。泥棒するにも何もありませんよ?」
「体の表裏が逆になる攻式呪術陣に! 生身で突っ込もうとしてる奴が! 何言ってんの!」
お姉さん、全力で突っ込んできた。良い人だ。
「ご心配なく。私はあなたのような素人とは違い、プロですから」
「何のプロだ! 死ぬプロか!? てかドヤ顔がムカつく!!」
ひいいい! 凶暴なお姉さんにこぶしで、頭をぐりぐりされた!!
「で、お姉さんはどなたですか?」
「……。ミスタークラウスの知り合いよ。心配しなくてもいいわ」
「そうですか。クラウスさんのお知り合いの方なら信頼出来ます!
はじめまして。私、ハナコ・ヤマダと申します」
「いや君、全然信用してないでしょ! 何、平然と偽名を名乗ってんのよ!」
そして、お姉さんは渋々『チェイン』という名前を明かしてくれた。