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【血界戦線】紳士と紅茶を

第3章 告白(下)



「む。もうそんな時間か」

 腕時計を見、クラウスさんの声がちょっと沈む。
 でもすぐパッと明るい顔になり、

「そうだ、カイナ。久しぶりにここに泊まっても構わないだろうか。君ともっと話をしていたい」

「えーと……」

 男が女の寝場所に泊まりたいという。
 不健全なものを想像するかもしれないが、クラウスさんの場合は何もない。マジで何もしてこない。
 二人で狭いテントに横になり、楽しくおしゃべりをして、ぐっすり眠る。
 ホント、それだけ。

 いつもだったら、まあいいかーと了承する。
 クラウスさんとおやすみするのは、重武装機動兵を一個師団、護衛につけるようなものだ。
 真っ暗なテントに横たわり、夜明けまで目をぱっちり開けている――ということもなく、超熟睡出来る。
 でも。

「すみませんが、今日はちょっと」

「……そうか。では今夜は退散するとしよう」

 ずーんと顔を曇らせるが、そこは紳士。
 食い下がったり理由を聞いたりという、みっともないコトはしてこない。
 
「では後ほど連絡をする。良い夜を」
 名残惜しそうに軽いハグをされた。
「あはは、すごく眠いから返信出来ないかもです」
「今夜は眠れそうなのだな。それを聞いて安心した。では」
 ……いつの間にか不眠のことまで心配されているし。
「おやすみなさい、お二人とも。ありがとうございましたー!」
 二人にぶんぶん手を振ってお見送りし、車が角を曲がり消えるまで見届ける。


「さて、と……」

 私はそのまま、地下入り口まで歩いて行く。
 懐中電灯くらいは持ったけど、他は特に何も持っていかない。死んでも大丈夫なので。

「五回死亡でイケるかなあ。『あいつ』がまだ生きてたら厄介だなあ」

 ぶつぶつ言いながら、出来の悪い頭を叱咤し、地下のルートを頭に思い浮かべた。

 枯れ草をどかし、落下防止用の板をどかす。
 するとそこに、暗闇に続く階段が見えた。
 懐中電灯で照らしても、奥は真っ暗。何も見えない。
 私は肩をすくめ、階段をすたすたと下りていく。
 途中、崩れたガレキに何度も道を阻まれたが、どうにか上手いこと乗り越え、下りていった。

 底まで下りきったところで、懐中電灯で周囲を照らす。

「やっぱり地下の被害は少なかったみたいですね」

 無音の空間。
 真っ暗な廊下がどこまでも陰鬱に続いていた。
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