第3章 告白(下)
といっても、やましいことは何もない。
クラウスさんは、英語の読み書きがろくに出来ない私のため、授業をしてくれる。無償で。
諸事情でこの土地から離れられず、金のない私のため、食料や生活用品を持って来てくれる。無償で。
何か困ったことがあれば、即駆けつける。助けてくれる。無償で。
無償。こちらに対価を一切求めない。
……厚意が重すぎる。何が楽しくて、一文無しの少女にそこまで金と時間を割けるのか。
あと未だに『パーティーに是非参加を』としつこく誘われる。
いい加減に胃が痛い。
「クラウスさんから、自立しよう……」
よろよろとテントを出る。
見えるのは、土台を残しただけの教会跡地。風に揺れる雑草が諸行無常を教えてくれる。
私がいる場所には『教会が建ってるように見える幻術』が張られてる。
ちょっと前までは本物の教会が建っていた。
で、私が所属していた『組織』は、ここを拠点に活動していたのだ。
「やっぱり、行くしかないか。自立のためだし」
私は跡地の、とある一箇所を見る。
そこは枯れ草と落下防止用の板に覆われていた。
そこに『教会地下』への入り口がある。
クラウスさんには言っていないが『組織』の本拠地は地上部より地下だ。
もちろん侵入者向けのトラップ多数。攻式警備魔術も厳重に張られている。
それだけに『組織』本部の物品や、機材が無傷である可能性が高い。
『組織』本部と連絡する通信機も。
それを見つけて、本部と連絡を取る。
そして私を回収してもらうのである。
そうしないと、怒られるから。
…………
…………
そしてテントでの夜は更けていく。
クラウスさんは宣言通り、高級レストランの食事をテイクアウトで持って来てくれた。
その後はお勉強して、本を読んでもらって、二人でとりとめのないお話をして。
昼間、あれだけスマホで電話したり、メッセージのやりとりをしているのに、会話は止まる気配もない……というか私は聞き役に徹しているだけだが。
でもクラウスさんは本当に楽しそうだった。
「君といつでも逢えることが本当に嬉しい。是非とも今度――」
「坊ちゃま」
ギルベルトさんの声で、ようやく時間が経ったと分かる。