第2章 告白(上)
大きな背中がとぼとぼと、結界の向こうに消えていく。
「あああああ!!」
同時にこちらも頭を抱え、最大級の自己嫌悪でジタバタする。
でも仕方ないのだ。どれだけ口を酸っぱくして『大丈夫』と言われても怖いのだ。
ついでに、知らない人がいっぱいいる場所に行くのが普通にイヤ。
そうやってしばらく、自己嫌悪に苛まれ。
「……寝よ」
だがダテに平均睡眠時間、1時間ではない。
どうせ今日も眠れまい。
よろよろとテントに入れば、スマホの通知ランプが光っている。
嫌々開けば、クラウスさんからのメッセージだのメールだのがいっぱい来てた。
さっきの強引な招待に対する丁重な詫びとか、出来れば来てくれると嬉しい~みたいな内容とか。
返信はせず、寝袋の中にこもる。
枕元に置いている聖書を取り、ランプの灯りを頼りに開いた。
相変わらず信心ゼロだし、まだ半分くらいの単語しか読めないのだけど。
「ん?」
ぺらぺらめくっていて、あることに気づいた。
色んなページのあちこちに、何か書かれてる。
「うわ、クラウスさんの書き込みだ!」
場所は主に、難しい単語や解説が必要な箇所。
クラウスさんの達筆な字で、丁寧に注釈がされていた。
い、いつの間に……。
しかも、こんなクソ高そうな本に書き込みとか!と戦慄するのは自分が貧乏人だからか。
「いつ書いたんだって……いくらでも書く時間はありますよね」
さっき言ったとおり、私は全く眠れないタチだ。
けど、クラウスさんと会ったときだけ、なぜか眠気が強くなる。
爆睡する私を膝に乗っけて、クラウスさんが書き物をする、ということもたまにあったのだ。
てっきり仕事をしてるのかと思ったら……。
半分申し訳なく半分呆れつつ、クラウスさんの端正な字を追う。
…………。
目がじわっとうるむ。
こんな良い人に、あんな失礼なことをして。
今度の今度の今度こそは嫌われたかも……。
いや、普段から塩対応してる分際で、あまりに身勝手とは分かっているが。
そしてちょっとだけ思った。
パーティーに行ってみようかな。
クラウスさんは、顔を出してくれるだけでも嬉しいと言ってくれたし。
……でもダメ。やっぱり外に出るのが怖い。
「――寝よ」
そう思って目を閉じた。まあ眠れないんですけどね。