第2章 告白(上)
「『無理』とお伝えしました。メッセージにもメールにもそう返信しましたよね?」
だが紳士は引かねぇ。
「カイナ。どうか君に、私が主催するライブラのパーティーに来ていただきたい」
いやライブラって何すか。久しぶりに来たと思ったらこれだ。
今、私は壁ぎわまで追い詰められている。
バラの花束と招待状を持った紳士に。
クラウスさんの大きな身体の影に、怯えた私が完全に包まれる。
「電話での招待の非礼を詫びさせてほしい。あれは決して君を軽んじてのことではない。
一刻も早く君に伝えたいと、早まった真似をしてしまったまでのこと」
「い、いや。最初から、こんなきちっとした招待状出された方がドン引きってか」
渡された招待状を見る。
見惚れるくらい達筆な字は、クラウスさんの手書きだそうな。
最高級紙に金の箔押しと浮き彫り。クラウスさん家の家紋と思しき封蝋。
こんなもん一般人は結婚式の招待状でもない限り、お目にかからんぞ。
「カイナ。いや、ミス・カイナ・シノミヤ。どうか来て欲しい。
内輪の集まりで完全に無礼講だ」
それ、余計に疎外感を味わうパターンだから。
「スティーブンやザップも君に会いたがっている」
絶対に嘘だ!!
助けを求め周囲を見るが、ギルベルトさんは表で車にて待機。
隕石が降ってきたり超魔生物が襲撃してきたりする気配もない。
「私、ここで留守番してなきゃいけないんです。勝手に出て行ったら怒ら――」
最後まで言えなかった。一瞬だけクラウスさんの顔に、激怒の表情が浮かんだからだ。
でも彼はそれをすぐに引っ込め、
「私が君の雇用主と話をする」
「だって、未だに連絡がないのに……」
「会社の人脈、情報屋、あらゆる伝手(つて)を辿る。
それで雇用主にたどり着き、了承を得られれば――」
「それじゃ駄目です。『組織』の人が直接、私に命令しないと」
そう言いながら本当は、どこかでここを出たいと思っている。
これだけ待っても、『組織』の人が来ない。
一日二日出かけたって、きっと気づかれない。
クラウスさんとパーティー。きっと楽しい。かもしれない。
でも理屈ではそう思っても、心は恐怖している。怖い。
「カイナ。パーティーに来てもらえないだろうか」
「嫌です」
小さく呟いた。