第2章 告白(上)
「ミスタークラウスの攻勢に耐えかね、何度か敷地から出ようとしていました。どうやら職を探したいようです」
「職探しが上手く行くかはさておき……援助を断るには、自立が一番だからな」
「ですがまだ。どうしても一歩、外に踏み出せないようです」
と、チェインは続けた。
「だろうな」
例の少女は、自分のいる小さな陣地から決して出ようとしない。
引きこもりという、簡単な問題ではない。
例の少女は『不死』という特殊性を持っている。
そして、壊滅した三流魔導組織の実験台兼、弾よけ玩具だった。
そのときのトラウマで、奴らの精神的な支配から未だ逃れられない。
彼らの命令――恐らくは『教会から出るな』――をどうしても破ることが出来ないのだ。
強引に連れ出した場合、精神崩壊も考えられるのでクラウスも強硬手段に出られない。
「厄介だな」
クラウスの入れ込みぶりは、日を追って冷めるどころか強まるばかりだ。
なのに例の少女は、殺すことも動かすことも出来ない。
敵でなければ、もはやこちらの関心の内ではない。
だが『不死』に利用価値はあるし、ライブラのリーダーと懇意にしている少女と知れたら、闇市場での相場は計り知れない。
いずれ面倒ごとの種に、ならなければいいのだが。
そのときギルベルトを伴い、クラウスが交渉先から帰ってきた。
「おかえり」
「…………ああ」
彼らしくない失意の表情だ。
「どうした。土壇場で蹴られたか?」
「いや、そちらは問題ない。予定通り正式な締結を終えてきた。書類はここに」
分厚い書簡をデスクに放ると、スティーブンは鋭い目で友人を見る。
クラウスはソファに座って、ギルベルトに紅茶を頼んでいた。
その間、クラウスは何度かスマホを取り出した。
そして操作しようとしては、ため息をついて、しまいこむ。
なるほど。失意の理由がさっさと想像がついた。
「重症ですね」
チェインが小さくささやいてきた。
「重症というか完全に末期だろ、あれは」
チェインを見ずに返答し、クラウスに、
「どうした。怒られたのか?」
「……断られた」
さながら合衆国でも滅んだかのような声だ。
「だから言っただろう。女性にしつこくメッセージを送りつけるなんて悪手――」
「そんなつもりはない。ただライブラのパーティーに彼女を招待しただけだ」