第2章 告白(上)
「こちらが貸与用の最新型スマートフォンでございます」
「不要です。ギルベルトさん」
「こちらはヘルサレムズ・ロットの技術を利用した非電源式充電器。
こちらがカイナ様用に編集した操作説明書でございます。お使い下さいませ」
「素直にお子様用説明書と言っていいんすよ、ギルベルトさん」
「指紋登録もすでに終わっておりますので、すぐにお使いいただけます」
「何それ怖い」
「こちらのアイコンを押せばクラウス坊ちゃまとすぐに電話がつながります」
「いやだから、いらないですって」
「こちらのアイコンを押せば坊ちゃまとの共有フォルダを確認出来ます」
「だから、いらんってっ!!」
ギルベルトさんの手に無理やり、スマホを押し返す。
『ちょっとやりすぎだと思いませんか? 何とかして下さいよ!』と目で訴えるけど、執事さんは困ったように笑うのみ。
うう。ギルベルトさんはよほどの事がない限り、主人の意向に異議を差し挟まない方向らしい。
なら私が。クラウスさんのためにも、ここはきっぱり言うしかあるまい。
私の反応を見、私が乗り気でないと伝わったのか、クラウスさんの顔は少し暗い。
罪悪感があるけど、伝えるべきは伝えねば。
「クラウスさん、もう充分です。あなたには感謝してもしきれませんが、ここまでして頂く理由がありません!」
うう。ちゃんと向き合うとデカいなあ。見下ろされるだけで威圧感を抱いてしまう。
私は元々デカい人が苦手なのだ。
「私がそうしたいというだけでは、理由にならないと?」
なぜ! なぜ『返答次第ではしかるべき実力行使をさせてもらう』みたいな”気”を発してんですか!!
「そ、そうですよ。クラウスさん。やりすぎだし――」
圧に押され、一歩下がる。
「カイナ……私はただ、私がいないときの君の安否が気にかかるだけだ。
私がいない間に、死んではいないか、悪漢に苦しめられてはいまいかと」
うーん、どっちもあるなあ。ヘルサレムズ・ロットだもの。
クラウスさんは真面目な顔になる。
「死を恐れ、回避するのだ、カイナ・シノミヤ。命とは一つきりのもの。
そうではなくなったとき、君は人から遠ざかってしまう。生きるのだ、カイナ!」
……スマホを貸す貸さないの話から、何でそんな決めゼリフっぽい内容につながるんだろう。