第2章 告白(上)
とあるヘルサレムズ・ロットの夕暮れ。
私はクラウスさんに抱き潰されかけていた。
「すまない。私の腕の中を、世界で一番安全な場所と言ってくれた君に……」
私をぎゅーっと腕の中に抱きしめながら言う。
ものすごい深刻な雰囲気だ。
けど私は言った。
「これは意外な展開でした。まさかクラウスさんが私を圧殺しようなどと夢にも思わず」
腕の中でじたばたする。
ん? 圧力が弱まった。
「……君は、私に殺されると思って抵抗をしていたのかね?」
クラウスさんの深刻な様子が抜けていた。
「え? まあ、そういう気分になられたのかなーと」
するとさらに腕の力が弱まった。私はクラウスさんを見上げ、
「ショック症状は治まったのですか? でも念のため病院を受診された方がいいですよ。
ギルベルトさんはいつ戻られるんですかね?」
「……? カイナ。先ほどから私たち双方の見解について、一定の齟齬(そご)があるように感じるのだが」
難しい言葉で話さんといて下さいな。
「クラウスさんは異界蜂に刺されて錯乱されたのでは?」
「???」
中略。
かくして、私の誤解は解け、
「カイナ。アナフィラキシーショック症状というのは――」
クラウスさんは私の勘違いについて、懇々と訂正下さった。私を膝に乗っけたまま。
「するってぇと、あなたは何かしら意識混濁されたりアレルギー症状だったり、高血圧だったりされてはいないと」
「うむ。先月の健康診断の数値は正常そのものだった」
ちょっぴしドヤ顔クラウスさん。私はホッとする。
「それは何よりです。健康第一ですね」
とクラウスさんにもたれ、
「そうだとも。ありがとう、カイナ」
大きな頭をなでなでされた。
……いや。ならなぜクラウスさんのご様子がおかしかったのだろう。
しかしクラウスさんの心拍数も落ち着き、どちらかというと満足げである。
なので、私はさっき感じた全てを忘れてクラウスさんにもたれた。
今度は穏やかに腕を回してきたので、すっかり私の緊張も解ける。
「ん~~」
ゴロゴロとご立派な胸筋に顔をうずめ、ベストやネクタイの匂いを嗅ぐ。
「カイナ。……もう少し、強く抱きしめた方がいいだろうか?」
「ええ、お願いします……」