第2章 告白(上)
あったかい。大きな人に身体を包まれ、守られている。
何があっても守ってもらえる、今この瞬間だけの私の避難所。
そっとクラウスさんに身体を預ける。
クラウスさんの静かな心音を聞いて、うとうとしたい。
……心音、早いな。
試しに耳をつけると、やはり鼓動の速さがハンパない。
「脈拍が早いですね。クラウスさん。いつもこうなんですか?」
クラウスさんを見上げ、首を傾げた。
あ。以前から気になっているクラウスさんの『牙』もすぐ近くだ。
これに触りたいというお願いは、さすがに度が過ぎているか?
「て、クラウスさんっ!?」
ギョッとした。紳士が半端なく苦しそうだ。
顔が真っ赤で、相変わらず心音も早い。
「大丈夫ですか!?」
「し、心配はいらない……」
そう言いながら私の身体を抱きしめているが。
そういえばクラウスさんは、今日、訪れたときから様子がおかしかった。
動悸、顔面紅潮、息切れ……考えられるのは……。
アナフィラキシーショック症状!!
まさかヘルサレムズ・ロットに生息する異界の蜂が、結界内に侵入していたのか!?
いかん! すぐに病院に搬送しないと!!
「すみません、クラウスさん、おります!!」
慌ててクラウスさんのお膝から飛び降りようとしたが、
「待ってくれ、カイナ……どうか離れないで」
ギュッと抱きしめられる。強く、強く。
「もう少しでいい、このままで……」
やはりおかしい。もし異界蜂に脳まで浸食されていたら。事態は一刻を争う。この人に何かあったら、ギルベルトさんにどう顔向けすればいいのか!!
「放してっ!! お願い、ですから……!」
なのにまた強く抱きしめられる。痛い痛い痛い!! 肋骨が砕けるっ!!
「すまない。君に、こんな怖い思いを……」
脳支配を受け、私を殺す気なのだろうか。
殺されるのは別にいいけど、即死させる紳士らしさはほしい。
パニックに陥っていると、クラウスさんにさらに抱きしめられ、骨がギシギシ言う。死へのカウントダウンが!
私は痛くて半泣きで、
「痛い! お願いですから……クラウスさん、放して……」
涙に濡れた目で見上げると、クラウスさんがとても悲しそうだった。
「頼む。どうかもう少しだけ、私から逃げないでほしい」
さらに強く抱きしめられた。
死ぬ。