第2章 告白(上)
何かしてほしいことは無いかと聞かれた。
「ああ、それなら一度だけ――あ、いえ特に何もありません」
「今、何か言いかけたのでは無いかね?」
「あー、いえ……」
紳士は真っ正面に座り、思い詰めた顔をしている。
今日はホントに何なんだ。少し様子がおかしい。
「考えたまえ。君は他人に対し遠慮が過ぎる」
これだけされて、遠慮しないのは逆にどうかと思いますが。
「すでにたくさん良くしていただいているのに、これ以上は――」
「そんなことはない! 私は君を――その……」
クラウスさんの顔が何やら赤くなる。
何を言って良いか分からず戸惑ってるようにも見える。まさかね。彼はしばらく沈黙し、
「さっき、君が何を言いかけたのか、聞きたい」
「あ。はい。私がやりたいことはですね。一度だけでいいから――」
…………
夕焼けの光が、ヘルサレムズ・ロットの空を染めている。
私はご機嫌で鼻歌まで歌っていた。
「……本当にこれでいいのかね?」
困惑したような声。
「はい。一度やってみたくて!」
「そ、そうか。もっと早く言ってくれれば、いつでもやってあげられたのだが」
「ギルベルトさんがいる前じゃ、出来ないですよ~」
椅子に座るクラウスさん。
私はその膝の上に乗り、普段とは少し違う景色を楽しむ。
「そうか」
頭を撫でられ、ほわっと頬がゆるむ。そうだ。もう一つ、お願いしてみよう。
「あとですね。両手を私の身体に回していただけませんか?」
「!?……あ、ああ。分かった」
大きな腕が、恐る恐るといった感じで私の身体を包む。
クラウスさんに背中から抱きしめられるみたいな格好になった。
まあ相手がデカすぎ、丸々包まれてる感があるが。
「これで完成!」
「完成とは?」
「私の避難所」
「…………」
クラウスさんにもたれる。
いいなあ。高級なシャツやベストの感触。大きな腕をそっと撫でると『!!』と、クラウスさんがビクッとするのが分かった。
ヤバい。ちょっと調子に乗りすぎたか?
図々しいと思われてないか心配だ。
でも私は、いつクラウスさんの慈善の対象から外れるかも分からないし。
いつ『組織』の人たちが到着するかも分からない。
甘えられる最初で最後の機会と思えば、やりたいことをやっておきたい。
「ここは世界で一番安全な場所なのです」