第2章 告白(上)
テイクアウトしたという高級料理店のフルコースは、ボロ泣きするほど美味かった。
「こんな美味しいものは食べたことがありません……死ぬ前に良い思い出が出来ました!」
「そうか、そこまで喜んでくれるとは思わなかったよ」
私の渾身の不死ジョークをサラッと流し(というか恐らく理解せず)、クラウスさんは満足げにうなずく。
「また持ってくるとしよう。何か君からリクエストがあれば――」
「いえいえいえ、いいです! 今まで通りドーナツとかサンドイッチとかでっ!!」
慌てて手を降って全力で『NO!』と訴えた。
そもそもテントの真横の草むら。そこに、野外用テーブル。
ここで食って良いのは、ジャンクフードかバーベキュー!
高級料理店のフルコースなど出番はない!
そして何より……。
メニューがフルコースになって気づいたが、クラウスさんのテーブルマナーがあまりにも完璧すぎる。この人、本物の上流階級だ。
クラウスさんの同席者としてふさわしいテーブルマナーを、と思う余りフォークを落とし、ギルベルトさんに代わりを差し出させること三度。
身分差に冷や汗が止まらない。
毎度、こんな緊張感ある食事を強いられてたまるか!
そんな小庶民の懊悩(おうのう)には、クラウスさんは露(つゆ)ほども気づかず、
「気にしないでくれたまえ。むしろ君はもっと食べるべきだ。これで食欲を出してくれるのなら私としても嬉しく思う」
私は拒食症患者ではございませんがな。
「食べるのは何とかしています」
「では前回の食事内容を教えてもらえないだろうか」
「そこに生えてた草を――」
言葉を遮られる。
「……何日か前に君に贈った、栄養食品セットの行方を聞いていいだろうか」
「ご心配なく! 何かの役に立つかなあって思ってまだテントの中です!」
「…………。カイナ。食品とは生命維持に役に立つものでは?」
「だから、そこに生えてた草を――」
「…………そこの雑草は食用では無いし、排気ガスやヘルサレムズ・ロットの地中有害物質を吸収している可能性が高い。
栄養素もほとんど無ければ、人間が分解出来ないセルロースが含まれている。
生命維持どころか、私は君が下痢と脱水で死に至る可能性を強く危惧する」
「大丈夫ですよ。死んでも生き返ります!」
「…………」
素で頭を抱える人間を初めて見た。