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【血界戦線】紳士と紅茶を

第2章 告白(上)




 私は草むらでボーッと聖書を読む。

 その私の耳に足音が二つ聞こえ、ガバッと起き上がった。

 敵か、敵じゃない人か。

 けど瞬時に私の緊張も解け、私は顔を輝かせた。

「クラウスさん、ギルベルトさん!!」

 結界の向こうから現れた二つの影に飛び上がって喜ぶ。
 前回、ちょっと気まずい別れ方をした気もするけど、詳細は完璧に忘却の彼方だった。
 おーいと手を振り、ぴょんぴょん飛びはね、走りよろうとする。

「クラウスさん、クラウスさん! ちょっと聞きたいんですが! クラウスさんってひょっとしてアラスカヒグマ――」

 先を続けようとして、足が止まる。

「……っ!!」

 クラウスさんを見た瞬間、脳天から足先まで電流のような恐怖が走った。

 私は彼に背を向け、脱兎のごとくテントの後ろまで一目散に逃げ出した。


 それくらいにクラウスさんは凄まじい気を発していた。
 朝から雑草以外食べていないという事情が無ければ、多分全力で吐いていた。それくらいの恐怖だった。

「――――」

 テントの後ろの地面に伏せ頭を押さえ、ぶるぶる震えた。
 クラウスさんに呼ばれた気がするけど、身体が固まって動かない。
 
「カイナさん、カイナさん」

 優しい声がして、フッと固い空気がほどけた。
 私はおずおずと顔を上げる。
 そこに執事のギルベルトさんがいた。
 立って見下ろすのではなく、スーツが汚れるのも構わず、私と同じように地面に伏せ、目線を合わせる。
 包帯の間から優しい目が見えた。

「どうされましたか? クラウス様が驚いておられましたよ? それと出来れば、先ほど話されていたことの続きが聞きたいのですが――」
 はて。さっき何を言おうとしたんだっけ。それはさておき。

「ギルベルトさん。クラウスさん、ついに世界を滅ぼすことを決意されたのですか?」
「はてさて。なぜ、突然そんなことを?」
「だって、さっきの目! すごい鬼気迫る感じでしたよ! 
 あれは生きとし生けるものを殲滅することを決意した目に相違ありません!!」

 今ここで思い出しても震えが止まらない。
 クラウスさんは確かに怒っていた。抑えきれない怒りがマグマのごとく噴き上がり、一般人の私にすら分かるレベルで、周囲を完全に圧倒していた。

 あの紳士が。怒り狂っていた。

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