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【血界戦線】紳士と紅茶を

第2章 告白(上)



 轟音とともに、クラウスの拳でデスクが真っ二つに割れた。

 ギルベルトがそつなく業者に、新しいデスクを発注をしているようだ。
 執事は一切の口出しをしてこないし、報告書を読むメンツにも入っていないが、だいたいのことは把握したはずだ。
 クラウスの次に彼女と関わっていた執事の内心は、どうなのだろう。

 そして深夜のオフィスに、クラウスの声が響く。

「諸君。この件は私が何とかする。捜査と報告、ご苦労だった。皆、帰りたまえ」

 明日も早いのに、クラウスは残るつもりらしい。
 数ページ読んだだけで気が滅入る、カイナ嬢の拷問&処刑報告書を全て読むつもりのようだ。

 当の本人がケロッとしているというのに。
 
「あー、クソ。胸糞悪ぃ。それじゃ、俺ぁ帰るぜ、旦那」
 ザップがだらしのないガニ股でブラブラと出口に向かう。
 チェインの姿はすでに無かった。

 スティーブンはクラウスに向き直る。友人が思い詰めて妙なことをしないよう、帰る前に一言釘を刺そうと考えたのだ。
 すると、

「一つ言っとくけどな、旦那。女ってなぁ、あんたが思ってるよりずっとタフだぜ」

 まだ帰っていなかったのか。
 多くの水商売の女性と関わってきた男は、こちら側に背を向けている。
「守ってやろうとか、助けてやろうとか、傷を癒やしてやろうとか、女どもには大きなお世話なんだよ」
 ぶっきらぼうな声と、見えない表情。

「何かしたかったら、美味いメシ食わせて、すっっっげぇ気持ちいいセックスしてやれ。
 そしたらいつの間にか機嫌直して、適当に立ち直ってんだよ、あいつらは」

 スティーブンが何か言葉をかけようとしたときには、扉は閉まった後だった。
 
「……その『牙狩り』本部に預ける件、考えておいてくれ。彼女にとっても悪い話ではないと、冷静になった君なら分かってくれると信じるよ」

 少し嫌味だったかと思いながら、扉に向かう。
 
 返事はなく、最後に振り返ったとき、クラウスはまだ報告書を読んでいた。

 その後ろで老執事は、直立不動で主人に付き従っていた。


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