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【血界戦線】紳士と紅茶を

第1章 出逢い



「ご、ご、ご心配おかけしました。本当にありがとうございます」
 引きつり笑いで『さっさと帰れ』と言いたくなるのをこらえた。
 だが紳士の紳士な言動には、トドメがあった。
「困難を乗り越えこのような状況になってなお、信仰の地に留まるあなたの勇気に敬意を」
 ……ヤバい。祈りだした。しかも本気で私のために祈ってる。
 紳士撤回。すっごく変な人だ。勇気とか関係ないし。
 でも後ろの執事さんは『よくあること』と言いたげに直立不動を保っている。
「は、はあ……」
 引きつつ、どう返事をしたものかと思って。

 ん?

 ポロッと涙がこぼれた。
 あ。ヤバい。泣くとこじゃないよね、ここ。
 てか何で泣いてんの、私。意味分からないし。
 泣くな、見られるな、隠せ。止まれよ、涙。
「……ミス・シノミヤ?」
 くそ、視界が涙でゆらめく。
 あなたも空気読んでさっさと帰れよ!
 いつまでいるんだ、てかあんた誰!?
「ホント、大丈夫ですんで……すみま、せん……では、これで……」
「お元気で、ミス・シノミヤ」
 クラウスさんもどうにか空気を読んでくれ、手を差し出してきた。
「お気遣い、痛み入ります。ミスタ・ラインヘルツ」
 

 もう二度と会わないだろうなーと思いつつ、去って行く高級車に手を振った。
 手を振り返していたクラウスさんは、角を曲がりあっという間に見えなくなった。


 その夜はガレキの陰にうずくまって過ごした。
 毛布も何もなし。泥棒や襲撃者に怯え、ガタガタ震えて眠らず朝を迎えた。
 そして黎明の光を混ぜた霧の中、昨日より少し汚れた身体で、ガレキの中を這いずった。

 こんな場所、とっとと出て行けばいいのだが、私はここから動けない。
 ここで『組織』の人たちが新たに来るのを待つしかない。
 けど、それにしたって何かしら生活道具は必要だ。
 何かないかなと、崩れかけた教会の中に入った。

「あ」

 足下がグラッときて、つい近くの柱に手をついた。
 ガラッと、破片が上から降ってきて、天を仰ぐと、

「うわ」

 柱が真上からポッキリ折れ、こっちに落ちてくる。
 どうあがいても今から走って逃げるの無理。回避不能。


 かくして一人残ったカイナ・シノミヤ。

 落ちてきた柱にグシャッとつぶされ死んだ。


 完♪


 ……ホントに死んだってば。
 
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