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【血界戦線】紳士と紅茶を

第2章 告白(上)


■sideライブラ

『メビウスの輪』。実に平々凡々たる名の新興魔導集団だ。
 
「ただし考えてることは壮大でな。並行世界まるまる一つを生け贄にして神性存在から強大な力を得る。そんなバカな計画を立てて有名になった奴らだ」

 夢見がちな連中だ。神性存在とは取引するものではない。『取引』という言葉を使うことすらおこがましい。
 当然、失敗したという。

「『メビウスの輪』はすでに無い。ヘルサレムズ・ロットの支部が壊滅したのと同時期に『メビウスの輪』本部は襲撃され、メンバー全員の死亡が確認されている」
「…………」
 メンバーが静かに資料をめくる音が響く。

「ほとんどの資料はそのときに焼却処分されたが、実験体8654-31561-RVBT『カイナ・シノミヤ』……彼女は契約の媒介目的に召喚され、契約に耐えるためどうやってか『不死』の力を与えられたらしい」
言葉を切る。
「そして契約に失敗した彼らはお嬢さんを、実験素材として再利用することにした。
 そのデータ資料は破壊を免れたごく一部だ。ああ、ザップ。今おまえがもっているそれだ」

 スティーブンが言葉を切ると、

「これ!? これがっすか!? しかもこれが『ごく一部』って……」
 ザップが分厚い魔道書ほどもあるデータの束を叩いた。

「拷問と処刑法の百科事典だぜ、これは。
 あのガキが、これを全部受けてたってのかよ」
 彼の額に汗が浮かんでいる。スティーブンは静かに、

「何をしても死なない人間だ。新興組織なら、喉から手が出るほど欲しい素材だろう。
 対『血界の眷属(ブラッドブリード)』戦における、切り札を見つけられようものなら、百億単位の利益が見込めるからな」

「だが私が知る彼女は、明るく聡明な普通の少女だった。
 これだけの仕打ち、人一人が抱えられるものではない」

 報告書を読むクラウス。かすかに震えている。

「君なら予想はついてるだろう。あの子は蘇生の際、自分の死亡記憶をいじってる可能性が高い」

「いや覚えていることも多い。それに時折フラッシュバックのような症状も出ていた」

「全部消えているわけでもないんだろう。印象の強い死に方は『残す』ことを無意識にやってる可能性もある」
 と、返答する。

 それが『不死』に付随する能力なのか、本人の魔術的特性なのかは、まだ不明だが。

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