第2章 告白(上)
ヘルサレムズ・ロットの騒々しい市街を、銀のオープンカーが走って行く。
「何なんすか、あのチビ。実はあの土地に縛られてる魔導的生物とか?」
走行中の車内で煙草を吹かしながら、ザップが言う。
「いや。『不死』であることを除けば、彼女は普通の女性だ」
返答するクラウスの声は、これ以上にないほど沈んでいた。
「おいしっかりしろ。ほら、これから向かう先の資料だ。今のうちに読んでおいてくれ」
「ありがとう、スティーブン」
書類を受け取り、目を通すクラウスは常と変わらないように見える。
だが紙をめくる速度に、コンマ秒単位の遅れがあることに、スティーブンは気づいていた。
――これは重症だな。
今はまだこの程度ですんでいるが、彼の中で、あの少女の影響力が大きくなるのは問題だ。
「何なんすかねえ。変なガキ」
まだ気になるのか、吸い殻をポイッと車外に投げ捨てながらザップが言う。
「『メビウスの輪』の元実験体。端的に言えばそうなるわ」
声がしたかと思うと、ザップの腕の真上にチェインが姿を現す。
彼女は、先ほど投げ捨てた吸い殻を彼の口の中にねじ込みながら、
「先ほどあちらでの捜査が完了し、資料を受信しました」
形容しがたい悲鳴と、罵声。だがザップはすぐに言った。
「……っ! 『メビウスの輪』って、まさかあの……」
クラウスは無言で書類を読み続けている。だが彼の頭脳は今まさにフル回転していることだろう。顔色がどんどん悪くなっていく。
「ええ、そうです。少し厄介です」
チェインは無表情に続けた。
「カイナ・シノミヤという子が所属していた組織は、すでに存在しません」
…………
夜だ。眠くない。
私はガレキの跡に生えたたくましい雑草の中に身を沈める。
ヘルサレムズ・ロットの霧の夜空を見上げながら考えるのは、クラウスさんのことばかり。
『私と出会う前、君にいったい何があったというのだ』
何と言われてもなー。
興味を持ってくれたのは嬉しいけど、聞かれてもマジで話すことがない。
本当につまらない、どうでもいい事なのだ。