第6章 悪夢の後日談
振り向いたらいた。
奴はそこにいた!!
我が婚約者にして世界最高の男性クラウス・V・ラインヘルツ!
花束を片手に持ち、ドアを半開きにした状態で固まっていた。
私の視線にちょっと嬉しそうにはにかみ、
「やっと案件が片付いたから今夜はゆっくり二人で過ごそうと……」
私はガタッと音を立てて立ち上がる。
聞いてない聞いてない聞いてないよね!? 頼むから聞いてないでくれ!!
先ほどの私の呟き、絶対聞いてないでいてくれ!!
だが現実は非情であった。
「カイナ」
私が近づくと、嬉しそうに両手を広げる婚約者。
「先ほどの発言は、君の真意と受け取っていいのだろうか。
君も私と気持ちを同じくしていることを知り、非常に嬉しく――」
「どりゃああああっ!!」
私は入り口の巨漢に全力のタックルをかけた。
だが、しょせんは××kg対130kgオーバーの勝ち目無き戦い。
しかし敵を数歩よろめかせることには成功した。
「カイナ……?」
私はそのままギュッギュッと敵を後ろに押し、
「Good night☆」
と、いい笑顔で親指を立て、バン!!と扉を閉めた。
そのままガチャッと鍵をかけ、ハァハァハァと荒い息をつく。
ドアの向こうからは戸惑ったようなノックの音。
『カイナ……何か君の気分を害することをしてしまっただろうか? 出来れば顔を見て話し合いを――』
私は最後まで聞かず、大股で扉を離れた。
この家は危険だ。今すぐ放棄しよう。
奴が家にいたことも、話を聞いていたことも想定外だが、加えて『気持ちを同じくしている』という物騒な発言をかまされるとは思わなかった。
あんな紳士的な笑顔で花束持って、内心で考えていることは『セックスしたい。ムチャクチャに犯したい』だったってことだぞ!?
戦慄に身体が震える。
さっきのは気の迷い! 冗談だから!
第一、明日も普通に仕事なんですよ!!
キラキラしたクラウスさんと、疲れ切って暗黒オーラを漂わせた私での出勤とか!!
皆に『ああ~(察し)』という哀れみの目で見られる!!
そして鬼番頭がクラウスさんに言うのだ。
『……クラウス。君のプライベートに口を挟むのは本意ではないんだが、戦闘員を万全の状態で待機させることも君の仕事で――』
みたいに!!