第6章 悪夢の後日談
■口を滑らせた話
ある夜。とんでもないことを口走ってしまった。
「はあ。クラウスさんとセックスしたいなあ。何かこう、ムチャクチャに犯されたいなあ……」
部屋でたった一人でいるからこそ出た言葉である。
だってクラウスさんがここにいるワケがない。
私の婚約者は忙しいのだ。
連日の『世界の命運を決する戦い』だの、番頭との打ち合わせだの、要人との会合だの会談だの。
……ここ最近は、この家に帰る暇すらも無いのだ。
もちろん、私も婚約者としてサポートすべきなのだろう。
だが、私には氷の番頭のごとき頭脳も無ければ、ギルベルトさんのような事務処理能力もない。
中途半端な戦闘員だ。
『君は戦闘で消耗している。帰りたまえ』
上司として、婚約者として言われてしまえば反論は出来ない。
そういうわけで、家に一人でいる。
……不安だ。
いつ、こんな状況が終わる? 暇なときは暇だが、多忙なときは何ヶ月も休みがない。
会えない時間が積み重なるにつれ、婚約者の心変わりが心配になる。
クラウスさんの周囲にはいつも魅力的な人がいっぱいだ。
いい加減に、ランク下の平々凡々な小娘に飽き、新しい女性に惹かれる頃ではないだろうか。
いや、もう惹かれていたとしたら? だから私との時間が取れないのだとしたら?
クラウスさんが浮気……というか他のもっと魅力的な女性に恋をしたら?
不安で不安で不安で不安で――ヤリたい。
ああそうとも! 本音を言おう! 多忙ってことはずっとご無沙汰なんだよ!!
「はあ。クラウスさんとセックスしたいなあ。何かこう、ムチャクチャに犯されたいなあ……」
そこらへんを踏まえた上での発言である。
決して自分は痴女ではない! ただちょっと! 愛されたいだけなのである!
なんつって。
「なーんて呟いたところで、クラウスさんがいるわけでも――」
風が吹いた。
正確には、後ろから外の香りがした。
誰かがドアを開けたのである。
だがこの時点で、私はまだ余裕であった。
『あら私ったらドアを閉め忘れたのね☆』
『キャ! こわ~い! 強○魔が侵入してきたのかしら☆』
『きっと新しい世界の危機に違いないわ☆』
という極めて正常な判断を下していたからだ。
だからクルッと振り向いた。
するとそこには――。