第6章 悪夢の後日談
翌々日。
私はライブラ事務所で腕組みをし、仁王立ちをしていた。
「言い訳を聞きましょうか」
どこぞの鬼畜番頭のごとき氷点下の声で、私は犯罪者に告げる。
「…………」
クラウスさんはしばし沈思黙考し、
「…………ない」
顔を上げ、きっぱりと答えた。
その目には、決して絶えたことのない強い意志の光。
「私は、己の行為に恥じることなど何一つとして無い!」
己の行為とは?
――記憶喪失の恋人に好き放題した挙げ句、デキ婚をもくろむという、恥以外の要素が見当たらない行いである。
「よくぞ言いましたね、我が元婚約者クラウス・V・ラインヘルツ」
「元、ではない。現時点でも君の婚約者だ!」
私は微笑み、無言で呪符を出す。
「出でよ! 我が配下たち!!」
召喚に応じ、結界から姿を現す我が頼もしきゴーレムたち。
とりわけ正義の怒りに燃えて咆哮するのは、アラスカヒグマを模したクラウスさん147号である。
多くのゴーレムを背後に従えた私。
それを目にし、もはや互いの道が交わることはないと理解したのだろう。
クラウスさんは悲しげに目を伏せ――ナックルを装着した。
「カイナ。私との婚約を破棄したくば、私を倒してからにしたまえ!!」
「よろしい! あなたを倒して、この不毛な日々を終わりにしましょう!!」
そして私たちは対峙した。もはやこの戦いを止められる者は世界のどこにも存在しない
「クラウスさん! あなたにふさわしい他の女と死ぬまでお幸せに暮らせ!!
行け! 第八十八符!!『白嶺夜(しらねよ)』!!」
私の声に応え、首の長い白き獣が、クラウスさんに襲いかかる。
だがクラウスさんは一歩も引かず咆哮を上げた。
「ブレングリード流血闘術――推して参るっ!!」
「……スティーブンさん、いいんですか、あれ」
「まあ今日は珍しく仕事がないからな。たまにはストレスを爆発させた方がいいんだ」
「ストレスって、いったいどっちの――」
レオナルドさんの声が聞こえた気がしたが、後は爆音にかき消されたのであった。
…………
…………
チーン。