第6章 悪夢の後日談
私は熱に浮かされた頭で必死こいて考える。
クラウス・V・ラインヘルツ。
人格は完璧、財産も地位もある、しかも力まである。
女として断る理由なくない?
むしろ何度か婚約破棄したらしい私、バカじゃね?って気になってくる。
いや、でもなあ……。
「カイナ……どうか、明日にも私と式を挙げてほしい!!」
迷いを読み取ったかのように、クラウスさんが両手で私の両手を包み込む。
「えー、い、いや、それよりも続きを……」
萎えるという言葉は女が使うには不適当かもしれないけど、せっかく盛り上がってたのに。
快感を人質に結婚を迫られると、何か冷めてくるというか。
……だから何でこう男女逆なんだ、私たちは!
「そ、それに私今、記憶喪失だし、そういうのはちゃんと治ってから――」
「だからこそ今のうちに! どうか結婚してほしい! 私の愛しき人!!」
……今、ちょっと引っかかることを言わなかったか?
いや結婚の申し込みはフリで、私の何かが萎えさせちゃって、実はもうヤル気が失せたとか?
「あ、あの、その気でないのでしたら私はいいので、もう寝まし――」
「カイナ!」
「!」
逃げかけた身体の両脇に手をつかれ、ものすごい睨まれる。
ほぼ威嚇というか、ほとんど脅しであった。
牙の迫力もあり、ほとんど獣。うなり声まで聞こえてきそうだった。
その眼光。
断ったら殺される!!
「カイナ……逃げないでくれたまえ。どうか返事を!!」
手をギュッと握られた。
覆い被さられ、逃げる隙は一片もない。
絶体絶命。もはやこれまでか……。
しかし何だ、前にもこれと同じようなことがあったような。
もっと違う場所、違うシチュエーションだったけど。
えーと、あれは確か……。
…………。
「カイナ。返事を」
そう言いつつ『YES以外は断じて許さない』という脅しをにじませた男が言う。
だからこそ私は返事をせねばならなかった。
「NOです」
「!!」
ショックを受けた様子の婚約者。
「ついでに貴方との婚約も解消させていただきます」
「なぜ!!」
それを見上げ、私は悪鬼の笑みを浮かべた。
「人が記憶喪失なのを良いことに好き放題するケダモノと! 誰が一緒になるって言うんですかっ!!」