第2章 告白(上)
「は、はい」
とりあえず応じておく。そしたらクラウスさんがさらに続けた。
「君は不死者ではない。幸福な人生を送る権利を持った一人のレディだ」
……やっぱり何を言いたいのかよく分からん。
『能力に溺れるな』的なことを言いたいらしいのは伝わってくるんだけど。
「君の命は軽いものではない。生き返るからと、頭部を砕かれ死ぬのを見ていろなどと。
例え君の頼みであっても私は断じて断る。私は、もう二度と見たくはない。あんな――」
クラウスさんの顔が苦しげに歪む。
『あんな』って?
あ……!
少し考え思い至る。
もしかして、クラウスさんはまだ覚えているんだろうか。
私が目の前で怪物に飲み込まれ、原型も留めない死に方をしたことを。
私自身が、とうに忘れていたのに。何も考えていなかったのに。
私自身が一切気にしていないのに、私を助けられなかったことを……。
「カイナ……」
クラウスさんが私をそっと抱きしめる。
「どうか自分を大切にしてほしい。君が死ぬことで悲しむ人間もいる」
いるわけがない。未来永劫現れるはずがないのに。
でも目の前にいる。
違う! クラウスさんにとって私は、貴族が慈善で面倒を見ているだけの子供だ!
駄目、止めて。頼むから、泣かないで、自分。
うぬぼれてしまう。依存してしまう。頼り切ってウザがられる。
泣くな、見るな、耳をふさぎ目を閉じてろ。嗚咽があふれて、止まらない。
「もう、死なないです……死なないよう、頑張るから……だから止めて……」
ボロボロ泣きながら言った。
「約束してくれたまえ」
「約束、します……死ぬの、止めます」
いや無理でしょ。言ったそばから思う。
この街は小娘一人が生きられるヤワな街じゃない。
今週だけで私が何回死んだと思ってんですか。
違う。まず自分の頭で考え、この街で生き延びる方法を探らないと。
でなければまた死ぬ。人に戻れなくなる。どうすればいいんだろう。
「……あの、も、もしかしたら……色々、お願いすること、あるかもです」
ガクブルしながら顔を上げた。
つまりはまあ、誰かに手助けしてもらうしかないのである。情けないなと、自分自身に嫌気が差したが、
「ああ、もちろんだ。何でも頼ってくれたまえ!」
ものすご~く、嬉しそうな紳士がいた。