第6章 悪夢の後日談
そしてさらに何日か経った。
私は記憶も取り戻せないまま、静かな生活を続ける――はずだった。
「カイナ。ずっと家にこもっていては退屈だろう。
結婚式場を見に行かないかね? ついでに式の日取りも決めてはどうだろうか」
「ウェディングドレスのショーがあるそうだ。良ければ気に入ったものを数点買って、都合の良い日に披露宴を――」
「新しいペンのインクの出具合は良いかね? ここに婚姻届があるから、名前を書いてみてくれたまえ」
……猛烈な勢いで結婚の押し売りをされています。
「うわあああっ!!」
今日もストレスでクッションを床にたたきつける。
何だって毎日毎日毎日毎日『買い物のついで』感覚で結婚を勧めてくるんだっ!!
何だってそこまで結婚したがる! 男女逆だろうっ!!
もはやクラウスさんがいつも言う『今日は安全な日だから問題はない』も、完全に信用出来なくなった。
それに恥ずかしい格好させられたり、マニアックなプレイをされたり、時々撮影されたりもするし!!
……しかし逃げられない。拒めない。
この家では絶対的にクラウスさんの方が、力も地位も上なのだ。
『以前のカイナは喜んでくれていた』と力をこめて断言されると、逆らいきれず変態的な要求にも応じてしまう。
このままじゃダメだ!
「このままでは、無理やり結婚させられるか子供が出来てしまう……!!」
え? 別にそれで良くね?
「い、いやいやいや!!」
内なる己にツッコミを入れる。
い、いや、決して嫌じゃない。嫌じゃないんだけど『それでいいのか』感がぬぐえない。
何より私は記憶喪失中の身なのだ。
クラウスさん、一見紳士で押しが弱そうに見えるが、その実ムチャクチャ強いのだ。
「今、応じたら今後の人生、良いように翻弄されますよ絶対……」
「カイナ!」
「ひ!!」
声をかけられビクッとする。
いつの間にかケダモノが帰ってきていた。
リビングにいた私を見つけるなり、嬉しそうに足早に近づいてくる。
「!!」
私はダッシュで自分の部屋に逃げ、鍵をかけた。
だが安堵したのも束の間。
バギィっ!! 鍵の砕け散る音がした。
「どうしたのかね。カイナ。何か不調でも?」
平然とドアをこじ開けやがった!!