第6章 悪夢の後日談
「……ん……」
窓から聞こえる鳥のさえずりで、目がさめた。
といってもすぐには起き上がらず、ベッドの中で伸びをして、しばしゴロゴロし――。
「!!」
ハッと飛び起きた。
「クラウスさん?」
慌ててベッドを確認するが、昨晩一緒に寝た大男はすでにいなかった。
ベッドサイドを見ると、ティーポットとティーカップと、プレーンのスコーン。
ゆっくり寝ていてほしい旨を記した、小さなメッセージカード付きである。
私はカップに紅茶を注ぎ、スコーンにジャムをつけてもそもそと食べ、紅茶を飲んでから『ふぁ~』と大あくび。
「…………」
昨晩のことが思い出され、恐る恐る自分の身体を見下ろす。
パジャマには乱れも何もなく、きちっと着せられている。
だが昨日寝るとき着ていたパジャマではない。
紅茶をズズッと飲みながら、昨晩のアレは何だったのか考える。
クラウスさんが? あの紳士があんなことを?
夢としか思えない。やっぱり夢だったのかなあ。
「……顔、洗おう」
ベッドから下り、もこもこスリッパに足を突っ込む。
難しいことは考えないことにした。
ちなみに本来の記憶の方は、未だに戻っていなかった。
…………
クラウスさんは温室にいた。
すでに身だしなみを整え、じょうろで植物に水をやっているところだった。
おぼろげな朝の光の中、緑に囲まれ、楽しそうに手入れをしている姿は一瞬、見とれそうになる。
彼は私の気配に振り向き、爽やかに笑った。
「おはよう、カイナ」
うーむ。顔は怖いけれどカッコいい。
水やりを終えたのか、じょうろを置いてこちらに歩いてくる。
それにしても、立ち居振る舞い――歩き方一つ取っても気品があり、記憶喪失の小娘に無体を強いる外道にはとても見えない。
やはり昨日のアレは夢だったんだろうか。
夢だったに違いあるまい。
私が若さ故の欲望を持てあまして? うう。我が身が情けない。
「おはよ、ございます……」
気まずくて、近づいてくる巨体から、少し目をそらし気味に返事をした。
クラウスさんは私を優しく見下ろし、
「カイナ。君に触れる許可を得ていいだろうか」