第6章 悪夢の後日談
何かイベント的なことが起こるかと思ったけど、それっぽいことは何も無かった。
「君の寝間着はここに入っている。口腔衛生に関する道具はここで――」
私の部屋なのに、当たり前のように、どこに何があるか知ってるらしい。
ついでにクラウスさんのパジャマや一部の私物もあるようだ。
「私の存在が気になるのなら、部屋を出ていようか?」
「いえ、大丈夫です!」
などという会話も交わしつつ、どうにか着替え終えて――。
「では寝るとしよう」
「……はい」
クラウスさんの巨体がギシッとベッドに上がる。
やっぱ一緒のベッドに寝るんすね……。
で、でもさっき『許可が無ければ無理強いはしない』的なこと言ってたし!
変に意識する方がおかしい。だ、だって私たち、こ、こ、婚約者同士なんだし!!
「寝ましょう!」
「うむ」
そういうわけで、私は勇んでベッドに入った。
それが悪夢の入り口と気づくよしも無く……。
…………
眠れない~。
暗い中、落ち着きなく寝返りを打っていると、
「カイナ。そんなに端で寝ると落ちてしまう。もう少しこちらに」
「……あ、はい!」
無意識にクラウスさんから離れてた。
身体をずりずり動かし、少しだけ真ん中の方に寄る。
すると、クラウスさんが私を抱き寄せた。
一瞬身体が強ばったけど、それ以上のことはされず解放された。
クラウスさんは気を悪くしたご様子も無く、
「やはり心配かね? なら、私は自室で休むが――」
「あ、いえいえいえ! 大丈夫です!!」
出て行ってもらうのも失礼な気がして、慌てて首を振る。
「そうか。感謝する」
「い、いえ」
「…………」
「…………」
ね、眠れねえっ!!
「カイナ」
「はい!?」
「君をもう一度、私の腕の中に閉じ込めていいだろうか?」
「…………はい」
うなずいてしまう。
瞬間に大きな胸板にぎゅうっと身体を密着させられた。
ヤバい。心音ヤバすぎる。
「カイナ。深呼吸を」
「え? あ、はい」
言われたとおりに大きく深呼吸した。その間に、背中をさすられる。
そうしていると、不思議に落ち着いてくる。
温かい。ここは日だまりの中。安心出来る場所。
自然とあくびが出た。