第6章 悪夢の後日談
十数通の手紙を丸々読み終えた。
普通のラブレターがほとんどだが、何割かは確実に『尋常では無い私の怒りを解くため』書かれたもののようだった。
しかも内容から察するに、私はクラウスさんに対して猛烈に怒ってるようだ。
だけど具体的に何があったのか。文中にヒントはない。
クラウスさんをチラ見したが、きょとんとしていた。
どうやら反省文を読まれてる自覚はないようだ。
私は首をかしげるしかない。
こんな完璧そのものの紳士に、あそこまで怒る理由がどこにあるの?
クラウスさんは何をして、私をここまで怒らせたんだ?
それとも以前の私が手のつけられないヒステリーだったとか? 嫌だなあ、それ。
冷や汗かきつつ手紙を探っていると、一番奥に一枚の紙を見つけた。
何も考えずに取りだして読むと、
『婚約破棄宣言
私カイナ・シノミヤはクラウス・V・ラインヘルツとの婚約を破棄する旨をここに宣言する。
当該男性は速やかにその事実を受け入れ、一両日以内に私物を全て此宅から撤去し速やかに退居すること。
要求に従わない場合は武力行使も辞さない所存であり――』
は……?
こ、これ、私が書いたものだよね。
時々判読困難なほど乱暴な筆致は、荒ぶる感情のまま書き殴ったとしか思えない。
自分自身のことながら、これを書いた主が怒り狂っている様子が、手に取るように分かった。
ガクブルしながら読んでいると、クラウスさんの手がそっと、私の読んでた紙をつかんだ。
「これは、君が私を困らせるため戯れに書いた物だ。まだ残っていたのだな」
「そうなんですか? よ、良かった~」
「ギルベルトが万が一にでも見つけたら混乱させてしまう。
この戯れの宣言文は破棄したいのだが、いいだろうか?」
「はあ、どうぞ」
そう言うと、クラウスさんは心底からホッとしたように、大急ぎで手紙をダストボックスに持っていき、丁重に投じた。
だがクラウスさんも、冷や汗をかいているように見えた。
大きな背中を見るにつけ、不安がこみ上げてくる。
完璧そのものの紳士だと思ってたけど、実は上手く行ってなかったのか?
クラウスさんは私の視線に気づき、大きく咳払い。
「その、色々あって疲れただろう。そろそろ、寝ようか」
「は、はい!」