第6章 悪夢の後日談
恐る恐る目を閉じると、顔に大きな手が触れ、上向かされる。
抱きしめられると、自分が丸ごとクラウスさんの中に入ったみたいな錯覚。
あたたかい。安心する。
この感覚……私、覚えている。
「カイナ。愛している」
唇が重なったとき、このまま時が止まればいいのにと思った。
…………
そしてクラウスさんについてもらい、改めて部屋の中を見て回ることにした。
「これは何ですか?」
びっしりと数式の書かれたノート。
「これは君が術式を練り上げるときに使用していたものだ。君は常に物事には真剣に取り組んでいた」
マジか……元の私のハードル、どんどん上がってくんですが。
冷や汗をかきつつ次に見つけたのは、ずっしり重い大きな箱だった。
開けて見ると、中にきれいな手紙が箱いっぱいに入っていた。
「これは?」
「ああ。これは私が君に送った恋文だ。大切に取っておいてくれたのだな」
クラウスさんがパァッと明るい顔になる。
私はちょっと顔を赤くし、手紙をいくつか手に取ってみる。
真っ白すぎる封筒に、花をあしらった浮き彫り、本物の封蝋、達筆すぎる字。
読んでみると、中は私への愛に満ちた言葉ばかり。
詩が書かれていたり、押し花が添えられていたり、男性の物とは思えないほどに美しく教養にあふれてる。
「カイナ。何か思い出しただろうか?」
クラウスさんが聞いてくるが、私はドキドキしてそれどころではない。
怖い顔も慣れてくれば可愛く思えるし、私を怖がらせまいとする紳士的な態度。おまけにこんな恋文を送ってくれるなんて。
こんな貴族みたいな男性が私の婚約者? 夢じゃないよね?
照れてる心を見透かされるのが嫌で、何枚か読み進めていく。
……ん?
『どうか許してほしい』
この文章、さっきの手紙にも出なかったか?
『このような過ちは二度としない所存であり』
これも、さっきの手紙で見たな。
他の手紙も次々に開く。
『君の怒りは私を深く打ちのめした。どうか寛大なる処置を――』
『この失態を教訓とし、我が身を戒める次第』
『君を傷つけたり怒らせたりしたいという意図でなかったことだけは、どうか理解賜りたく――』
……何かどれも恋文ってか反省文じゃね?