第6章 悪夢の後日談
…………
私はティーカップを置いた。
「ごちそうさまでした」
「礼には及ばない。君の笑顔を見ることが出来て、何よりも嬉しい」
「ど、どうも……」
笑うと怖いなあ、クラウスさん。でも見た目よりおっかない人ではないのかも。
横に座られるとどこか安心感がある。
そして緊張がほぐれたところで、クラウスさんから、婚約者目線での私の話を聞くことにした。
……だが。
「君はいつも海のように寛大で大地のごとく慈愛に満ち、その天使の微笑みで私を癒やしてくれたものだ」
クラウスさんは夢を見るように、うっとりと述懐する。
「……はあ」
「世のあらゆる辛酸を舐めながらも君の瞳には常に不屈の魂が宿り、その凜とした強さに私は幾度助けられたか知れない」
「…………は、はあ」
「その愛らしい小さな腕で私を抱きしめ、永遠の愛を誓ってくれたとき、この身は天上の幸福に包まれた」
「ええと、そうですか……」
「君は私にとって、可憐なる一輪の薔薇、最愛の魂の片割れ、高貴なる片翼、世界一愛らしいハリネズミ」
「――――」
……最後に変なワードが紛れ込まなかったか?
クラウスさんの話、マジで使えねえ。
というかクラウスさんが話してるのが誰のことなのか、本気で意味不明なんですが。
誰だ、その天使だか聖女は!!
鏡を見ても平々凡々なカイナさんしか映ってませんがな!!
もしかしてこの人は妄想狂か何かなのか?と不安に思っていると、クラウスさんが私の手を取る。
「…………」
口説き文句を経て、このままベッドインの流れなのか?と一瞬、不安に思った。
けどクラウスさんは私の表情から読み取ったらしい。
「安心してくれたまえ。君に無理強いはしない」
「え?」
「君の許しがない限りは、これ以上、触れたりはしない。今は何より、君の心が安寧を取り戻すことが大事だ」
記憶を取り戻せ、今すぐ取り戻せ!ではなく、休んでいていいと言われたことにホッとした。
それに、私の手を取り、見つめるまなざしは真摯(しんし)な愛情にあふれていた。
クラウスさんはまっすぐに、
「カイナ。最愛の人。どうか私に許しを与えて欲しい。君を抱きしめ口づける許可を」
「…………」
一瞬たじろいだけど、真っ赤になってコクンとうなずいた。