第2章 告白(上)
「生還率が低いという割に、何も起こらないですねー」
焚き火の炎に当たりながら、クラウスさんとおしゃべりする。
誰かと一緒にキャンプするなんて初めてだから、ワクワクして仕方ない。
「確率は確率だ。1%を下回っていても何もないことはあるし、99%でも突発的事態が発生することはある。油断は禁物だと思いたまえ」
「はいです」
焚き火に枝を足しながら、クラウスさん。
炎が闇の中にパチパチと燃え上がり、なぜか安心する。
「あ、そういえばさっきはすみませんでした」
「何がだね?」
「えと、聖書を読んで下さってるのに寝ちゃって」
本を読んでやってる最中に爆睡。これで立場が逆だったら、私は本の角をそいつの後頭部に叩き込み、二度と来ないであろう。
「私こそすまなかった。もう少し君が楽しんで学べるよう、教材を工夫すべきだった」
クラウスさんの向上心が相変わらず重い。
「次はコミックなどどうだろう?」
……私に読ませるためスパイ○ーマンや超人ハ○クを買いに行くギルベルトさんと、それを真顔で音読するクラウスさん。シュールの極みだなあ。
「次は寝ないよう注意します。今のままでいいですよ」
「そうかね」
「ええ」
そう言って、クラウスさんにもたれた。
「カイナ。寒くはないかね?」
肩を抱き寄せられ、なぜか泣きたいような切ないような、不思議な気分になる。
誰かと過ごす夜が、こんなにも安心出来るものだなんて知らなかった。
ずっと、ずっとこのままでいられたらいいのに。
…………
「――まあ、ヘルサレムズ・ロットでそんな状況、無理ですよねー」
ボソッと呟く。
「隠れていたまえ、カイナ!!」
クラウスさんが叫ぶ。
彼は左手をナックルで武装し、よく分からん巨大怪物に十字の斬撃を雨あられとぶちかましていた。
だが敵も応戦する。
どこから現れたのか、生きとし生ける存在全てを食らわんとする、不定形の怪物たち。
その群れを前にクラウスさんは動じず、一歩も引かない。
「ブレングリード流血闘術――」
そしてまた、轟音と閃光と咆吼がとどろく。
戦いがこのレベルになったら、もう自爆テロとか、かんしゃく玉程度の威力でしかないよなー。
私は心底から納得し、身体を最大限に縮め、クラウスさんの足手まといにならないよう隠れたのだった。