第2章 告白(上)
「で、クラウスさんがなぜここに?」
三杯目のシチューをかきこみながら、クラウスさんに聞く。
クラウスさんはシチューを優雅に召し上がりながら、
「この地域の生還率が20%を下回ったとの情報が入ったから、念のために私が泊まることにした。
ギルベルトは退避させているから、問題はない」
「は!?」
え。いや、何で!? 意味分からないんですが!!
「君を避難させるのがベストだが、君はここから離れたくはないのだろう?」
「はい、でも、あの、だからってクラウスさんが……」
しどろもどろに言う。
「君も聞いていただろう? 今夜の予定は無くなった」
開いた口がふさがらん。こういうときは家でのんびり過ごすもんだろう。
「でも会社で緊急事態が起こることもあるでしょう!?」
「そのときは全員で最善を尽くして対処に当たるまでのこと。今は君の安全が最優先だ」
「…………」
あかん。存在がまぶしすぎる。絶対に人類より一段階上の生き物だこれ。
「生きていてすみませんでしたー! 今から命を絶つので今夜はお帰りをー!」
「その手つきでナイフを持つのは止めたまえ。ケガをしたらどうする」
錯乱するわたくしを、子猫でも扱うように丁寧に取り押さえたクラウスさんであった。
「あー、もう! クラウスさんがお泊まりになるって分かってたら、テントの中を掃除したのに!!」
テントの中からゴミを出し、必死に寝場所を作る。
元々ここには半壊した教会があり、私はそこを拠点にしていた。
でも先日、どこぞの巨大イカにより全壊となった。
クラウスさんは私に安全な場所に移るよう提案したが、私は頑として拒んだ。
で、クラウスさんは観念し、幻術と結界で不審者が入ってこれないようにした。
私は、最低限の人間的生活を維持するための物資(テントとか)以外は、支援を断った。
「私は外で寝るとしよう」
「え?」
「気にしないでくれたまえ。野宿には慣れている」
お鍋の後片付けをしながら、クラウスさんが言う。
私はピタッと止まり、
「慣れてらっしゃるのですか?」
貴族なのに? 会社社長なのに?
「ああ、牙狩……ええと、そ、その、昔、軍隊にいて」
「それは大変でしたね」
ガタイが良いのは軍隊上がりだったからなのかと得心がいった。
クラウスさんの目が泳いでるのが若干気になったが。