第6章 悪夢の後日談
…………
数時間後。私は真っ青な顔で震えていた。
ここは私の家らしい。
あの後、私は『事務所』とやらから返され、自宅に戻っていた。
そして目の前では旅行トランクを持った執事さんが、丁重に私に一礼した。
「このようなときにカイナ様のお世話を致すことが出来ず、申し訳ございません。あちらでの任務が遂行されましたら早急に戻る所存ゆえ、どうかお許し下さい」
「あ、いえ、ご丁寧に……」
どう言ったものか困る。
この人はギルベルトさん。執事。
私の人間関係については、昼間にイケメンの人から聞いた。
でも実感がわかないというか、ドラマの登場人物のように他人事にしか感じない。
焦っても、全ては白い霧の向こうだ。
「私たちのことは気にせず、行ってくれたまえ、ギルベルト」
ビクッとした。私の横で、クラウスさんが口を開いたからだ。
「ありがとうございます、お坊ちゃま」
ギルベルトさんはクラウスさんにも深々と頭を下げる。
「そろそろ飛行機の時間だろう」
クラウスさんは立ち上がり、彼を玄関まで送っていくらしい。
私も続こうと立ち上がったが、
「カイナ、君はここで休んでいてくれ」
そう言われて、浮かしかけた腰を下ろす。
『それでは……』と私に再度頭を下げるギルベルトさんに慌てて頭を下げ、リビングから出るのを見送った。
「…………」
二人がいなくなったところで、私は再度困った。ソファで身体を丸め、ガタガタ震えた。
ギルベルトさんはさておき、私はあのデカい人が怖くて仕方ない。
あの人はクラウスさんなる、私の婚約者だという。
物腰は紳士だった。実際家に帰るまで、姫君かと思うような扱いを受けた。
しかしマジで思い出せんのだ。
それに私の心の奥底がものすごい警鐘を鳴らしてる。
油断をしてはいけないと。
くわえて、私は図体がデカい人が怖いのだ。
何か機嫌を損ねたら怒鳴られたり殴られたりするかも、と想像するだけで震えが止まらない。
いったい、これからあの人と『婚約者』としてどう生活しろって言うんだ。
あ。表の方で玄関が閉まる音が聞こえた。
クラウスさんがもうすぐこっちに戻ってくる!
私は立ち上がり、慌ててリビングを離れた。