第6章 悪夢の後日談
■忘れた話
※悪さする気満々なクラウスさん
某日。私は困っていた。
うん困った。すごくすごーく困った。
ただ困っているのは私だけでは無い。私の周囲の人たちもだ。
「困ったな」「困りました」「困ったわね」「困りましたね」「俺は別に困ってねえけど」
皆、それぞれそう言ってた……困ってない人もいる模様だが、とにかく大部分は困ってた。
私はカイナ。今、ソファに座っている。
しかしここはどこだろう。
一松模様の床、赤い壁、壁には図書館のように膨大な蔵書。そこかしこに美味しそうな観葉植物。
『事務所』だと言われたが、それにしてはあまりに立派過ぎる。
ここはどこで、私はいったい誰なのだろう?
「診断では、記憶が戻る可能性は半々とのことです。これ以上、強いショックを与えないようにし、休養をと」
説明してるのは、顔を包帯でグルグル巻きにした執事さんっぽい人。
この人は病院に付き添ってくれ、車の中でも何かと言葉をかけてくれた。
単なる仕事では無く、私を心から心配してくれてる雰囲気をひしひしと感じた。
が、申し訳ないことに思い出せない。
色々が色々あって、どうやら私は一時的な記憶喪失になっているらしい。
困った。本当に困った……。
無言で困ってる私を見、執事さんっぽい人は、
「カイナ様がこのような状態です。やはり出立を延期して――」
「それはダメだろう、ギルベルトさん。何ヶ月も前から決めていた日程だし、身内事なんだから」
目元に傷のあるイケメンの人が言う。
よく分からんが、ギルベルトさんという人は、これからどこかに出かけ、しばらく戻らないらしい。
「彼女のことは僕らに任せて、行ってきて下さい。僕らが上手くフォローするから。
君も大丈夫だな、カイナ?」
「え? はあ。大丈夫ですので行って下さい」
イケメンにいきなり話を振られ、若干キョドリつつ答えた。
「その通りだ、ギルベルト。カイナは私が面倒を見る。安心して行きたまえ」
…………。
誰だ、私の肩に手を置くのは。デカい手だ。そして異様な威圧感。
チラッと私は振り向く。
でかっ!!
何やら巨大で恐ろしい形相の生物が、私の背後で、肩に手をかけていた。