第2章 告白(上)
誰かが……歌ってる。とても機嫌がいいみたい。
いい匂い。温かいシチューと、焚き火がパチパチはぜる音。
ゆっくりとかきまぜる音。温かい毛布。
ここ、どこだろう……私、やっと、家に帰れたのかな……。
濡れたまぶたをゆっくり開けた。
「起きたかね? 今、ちょうど出来たところだ」
「へ?」
事態が把握出来ず、目をこすりながら起き上がる。
かけられた毛布が身体から滑り落ちた。
えーと今、夜。ここは、私のテント横の草地の上だ。
声の主はクラウスさん。彼が鼻歌を歌っていたのか。
そして焚き火にかけた鍋にはシチューがコトコトと……。
「キャンプっ!?」
思わず叫ぶ。クラウスさんは目をぱちぱちさせ、
「ここは電気も水道も復旧していない。だから必然的にこうなったのだが」
そうなの? ヒツゼンなの、これ?
「カイナ。君はここでの生活は自分で何とかすると宣言したが、ちゃんと食べているのかね?」
ギクッ!
「え、えーと……食べなくても死なないから、いいかなーって」
食ってません。水分取ってますが、普通の食事は三日に一食取れば多い方。あとは雑草食ってます。
するとクラウスさんは少し悲しげに眉をひそめる。
「食べなくても死なないのでは無く、死んでも蘇生する。
君の不食はゆるやかな餓死と同義だ。
死に至る過程での苦痛は、通常の人間と変わらないのだろう?」
「そうですが何回か死んでれば慣れますよ。それに、こういうのに慣れると、食べたりするのが面倒になっちゃって」
クラウスさん、ちょっと頭痛が痛いお顔をする。
ちなみに私の粗食は『組織』に回収された後のことを考えてのことでもある。
あっちに戻ったら、また水も食料もほぼ与えられない生活になる。だから飢餓に慣れておこうという事情があった。
クラウスさんは知らなくていいことだ。
「カイナ。君は壮絶な体験を繰り返すうちに、生存本能が著しく低下してしまったように思える。
だがそれは良くない。君は人間だ。生命からかけ離れた生活に慣れれば慣れるほど君は――」
「大丈夫ですよー生き返りますし」
ヘラヘラ笑うと、クラウスさんは悲しげに、
「では、私の料理は不要ということになるのだろうか」
「食べますっ!!」
クラウスさんに叫び、情熱を伝えたのだった。